葛布、祖母の記憶 ――朝日歌壇から―― | ことのは学舎通信 ---朝霞台の小さな国語教室から---

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 昨日(1日)の朝日歌壇高野公彦氏選第1席は、こんな歌であった。

葛布織り茶を摘み畑耕して記憶の祖母は常に働く
                  (福山市 倉田ひろみ)

 「葛布(かっぷ)」というものを知らなかったので、調べてみた。
 葛の蔓の繊維から織った布だという。
 葛の蔓を煮沸し、発酵させた後、水で洗って繊維を取り出し、布を織る。
 すべての工程が、今でも手作業で行われている。
 水洗いのときの水は、水道水では艶が出ないため、川の水を用いる。
 静岡県大井川掛川が主要な産地である。

 「葛布織り」「茶を摘み」とある。倉田ひろみさんお祖母さんは、静岡の人だったのだろうか。
 ただ、いつも働いていた、というだけでなく、「葛布織り」「茶を摘み」と具体的な仕事を詠みこんだために、この歌のお祖母さんの記憶が、実感を持って読むものに伝わってくる。
 働き者であったお祖母さんが、歌に詠まれたことで、倉田ひろみさんひとりの記憶だけでなく、朝日歌壇の読者の記憶にも留まることになる。
 歌の力である。