怪我の功名 ――カニカマ誕生―― | ことのは学舎通信 ---朝霞台の小さな国語教室から---

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考える力・伝える力を育てる国語教室 ことのは学舎 の教室から、授業の様子、日々考えたこと、感じたことなどをつづっていきます。読んで下さる保護者の方に、お子様の国語力向上の助けとなる情報をご提供できたらと思っております。

 朝日新聞には土曜日に「be on Saturday」という別刷り紙面がある。

 わたしは、新聞本体よりこちらのほうが好きである。

 新聞本体にあるような悲惨な事故や腹立たしい出来事が載っていない。

 圧倒的に楽しい話題や面白い話題が多い。

 

 今日の「be」の連載「はじまりを歩く」のテーマは、「カニカマ」であった。

 世界初のカニカマは、1972年7月に石川県七尾市の水産加工会社スギヨによって、「珍味かまぼこ かにあし」として発売された。

 その開発の経緯が面白い。

 

 1960年代、日中関係が冷え込み、中国から食用クラゲが輸入されなくなった。

 そこで後に社長になる杉野芳人さんが人工クラゲの開発に取り組んだ。

 失敗の連続にめげることなく研究を続けた杉野さんは、ある日開発中の食材がカニのような食感であることに気づいた。

 急遽方針転換し、開発されたのが最初のカニカマであった。

 

 杉野さんとともに開発に取り組んだ清田稔さんは語っている。

 「あの時、人工クラゲの製造に成功していたら、カニカマが誕生したかどうか。わからんものですね……」

 

 カニカマの誕生は、怪我の功名だったのである。

 しかし、その怪我の功名を生んだのは、杉野さんの飽くなき探求心である。偶然の幸運だけで成功したのではない。

 

 この話に、わたしは心打たれた。

 失敗は、そこで諦めたらただの失敗で終わってしまう。

 成功をどこまでも追い求める人にとって、失敗は成功への通過点に過ぎない。

 目先の小さな失敗ですぐに心が折れそうになるわたしは、この話を肝に銘じておかなければならない。

 それから、打たれ弱くすぐに諦めてしまう子どもたちにもこの話を教えてあげたい。

 

 こういう話は、土曜版beを読んでいなかったら出会えなかったであろう。

 朝日新聞、土曜日のbeは楽しい。

 今日の記事には、1ページの3分の1のスペースを使って色々な会社のさまざまなカニカマの写真が載っていた。

 緑色のカニカマや、焼がに風味など、見たこともないものもあって、眺めていて楽しかった。

 

 新聞の購読者数が減少しているという。

 こんな楽しい読み物を知らずに生きている人がたくさんいるなんて、もったいない。