仕事をほったらかして、万葉集をパラパラとめくっている。現実逃避である。
巻5の、大伴旅人が妻を亡くしたときの歌が、心に響いた。
世の中はむなしきものと知る時し いよよますます悲しかりけり
(世の中はむなしいものだと知ったときに、いちだんと悲しみが増すことよ)
悔しかもかく知らませばあをによし国内(くぬち)ことごと見せましものを
(悔やまれるなあ、こんなことになると知っていたら、国中を旅して隅々まで見せてあげたのに)
妹(いも)が見し楝の花は散りぬべし わが泣く涙いまだ干なくに
(妻が見ていた楝の花は散りそうだ 私の涙はまだ乾いていないのに)
子どもを思う歌もある。
銀(しろがね)も金(金)も玉も何せむに 優(まさ)れる宝子にしかめやも
(銀も金も玉の何になろうか、子に優るほど価値のある宝があろうか)
1300年ほど前に詠まれた歌である。
妻や子を思う気持ちは、何年経っても変わらないものだと、つくづく感じる。そして、歌の力も。
歌のある国に生まれてよかった。