土曜日は、ことのは学舎の将棋教室の日である。
最近わたしが頭を抱えている問題がある。
子どもたちの指し手が、早すぎるのである。
ちょっと考えればもっとよい手がある局面でも、よく考えずに数秒で悪手を指してしまう。
見落としによって駒をただ取りされたり、ただ取りできる駒を取らないまま何手も見逃してしまうことも多い。
ひどいときには、自玉の王手を見落として負けになることもある。
ちょっと立ち止まって考えれば勝てた勝負を、自らの見落としで負けてしまうことが多すぎる。
将棋教室を始めた4年前は、逆であった。
長考して、90分の授業時間に決着がつかないことがしばしばあり、対局時計を導入した。
持ち時間15分、使い切ったら1手60秒、というルールで指させた。
わたしもときどき81道場というオンライン将棋対局サイトで15分-60秒というルールで指すが、15分や60秒という持ち時間は、実際に指していると非常に短い。
重要な局面では、もっと考えて深く読みを入れたいと感じる。
先日の名人戦第3局で、渡辺名人が99%勝ちが決まっている最後の1手に90分使ったことが話題になったが、その気持ちはよくわかる。1手の重要さを考えると、時間はいくらあっても足りないのである。
最近の子どもたちの早指しは、世の中のタイパブームと無関係ではないだろう。より短い時間で物事を処理するのを良いこととする考え方が、子どもたちの間にも浸透しつつあるように思う。
将棋の対局サイトも、81道場より将棋ウォーズのほうが、人気が高い。いちばん持ち時間が長いルールでも、10分切れ負けである。将棋が、早さを競うゲームになっている。
プロの対局でも、ABEMAの棋戦は持ち時間3分などの早指しが多い。あっという間に決着がつくので、ちょっとした空き時間に観戦するのにちょうどよいのであろう。
わたしは、持ち時間9時間で2日間かけて指される名人戦の、動かない盤面をじっくり考えながら見るほうが好きであるが、そのようなタイパの対極にある観戦は、忙しい現代人には受け入れられないようだ。
しかし、プロは猛スピードでも好手を指せるからよい。
子どもたちの将棋は、早くて見落としだらけである。
早指しは、じっくり考えてよい手を指せるようになってから身に付けるべきである。
教室では、講師が1手に10秒は考えなさい、と口をすっぱくして言っているのだが、なかなか改善されない。
この状態が続くようであれば、10秒以内に指してはいけない、という、逆制限時間を設けようかとも考えている。
将棋ぐらいは、時間をかけて落ち着いてじっくり考えてもらいたいものである。
内容の悪い将棋を何局も指すより、良い将棋を1局指すほうがはるかによい。
内容の悪い将棋に使った時間は無駄な時間であり、本当はタイパにもなっていない。気づいてほしい。