昨日(10日)朝日新聞のオピニオン面に、日本ハムファイターズのスカウト部長の大渕隆さんのインタビューが載っていました。
理想の教育とは何か、人を育てるとはどういうことか、といつも考えている私にとって、共感できるところや学ぶべきことが多く、大変興味深い記事だったので、紹介します。
大渕隆さんは、大谷翔平選手をスカウトし、日本ハムファイターズで5年間見守り育てた人です。
その、大渕隆さんの言葉。
大谷選手は高校時代、監督の指導ですでに自分を成長させる手法を会得していました。本を読むとか、短・中・長期で目標を立てるとか。こうした、その後にずっと生きてくる「自ら考える力」を選手が持っているかどうかは、スカウトする上で重視しています。
「ハード」が身体能力や技術だとすれば、「OS(基本ソフト)」は考える力や性格。ハードが多少劣っていても、OSがウィンドウズ3か10かでは全く違う。
球速や身体能力など、見えるデータは評価の確認には使えますが、そこを重視しすぎるとうまくいかないことが多いです。大事なのは数字にはならない、考える力や強い思いといった「見えないもの」で、そこに焦点をあてなければ我々の仕事の意味はないと思います。
プロ野球選手の話ですが、そのまま子どもの教育にも当てはまります。
「自ら考える力」を持っているかどうか、ということは、わたしも子どもたちに教える上で最も重視しています。
スカウトと違うところは、スカウトは「自ら考える力」を持っている人を見つけ出すのに対して、わたしの仕事は、「自ら考える力」を持っていない子どもにもその力をつけてあげる、というところです。
社会に出て自分の未来を切り拓いていけるようになるためには、子どもたちが「自ら考える力」を持たなければなりません。
ハードが同じでもOSが違えば発揮できる能力が違う、というのも、教育にそのままあてはまります。
ただし、プロ野球の世界に入ってくるのは、スペックの高いハードを持った人材ばかりです。教育の世界は、そうはいきません。
子どものハード(生まれつきの能力)には差があります。思考力や記憶力が優れている子どももいれば、劣っている子もいます。
わたしたちは、子どもたちのハードの能力を最大限に引き出せるように、つねにOSをアップデートしてあげる必要があります。プログラマー(教師)の腕の見せ所です。
数字にはならない「見えないもの」に焦点をあてる、ということも、わたしの仕事と同じです。
教育産業は、テストの点数や偏差値のような、目に見える数字で子どもたちを評価しがちです。テストで高い点数、高い偏差値をとれるようにすることが、教育の目標だと考えられています。
その結果、手っ取り早く点数を取る方法を身に付けさせるという指導が、広く行われています。
テストで手っ取り早く点数を取るためには、できる限り考える要素を減らして正解にたどり着く手順を教えることが近道です。
小学校の算数の授業では、問題文に「あわせて」「全部で」とあったら二つの数字を足す、「違い」「足りない」とあったら引く、というように、解法のパターンを教えることが行われています。
国語の授業では、設問に「なぜ」「どうして」「理由」という言葉があったら、本文から「だから」「なぜなら」と書いてあるところを探す、ということを教えます。
中学受験の算数では、レンズ形の面積の公式として、正方形の面積×0.57 という式を暗記させます。
これらの方法を使うと、考える作業を省略してテストで点数がとれます。
テストの点数だけを見ている限り、子どもたちが考える作業を省略していることに気づきません。
子どもたちは、考えなくても点数が取れるからそれでよい、と考えるようになります。
わたしたちがテストの点数や偏差値という目に見える数字を追えば追うほど、子どもたちは自分の頭で考えなくなります。
本当にわたしたちがやらなければならないことは、生徒の点数だけを見るのではなく、どれだけ考えているかに焦点を当てて指導することです。
人を育てるということの本質は野球選手のスカウトも子どもの教育も同じだ、と、大渕隆さんのインタビューをよんで感じました。
「考える力」という、数字で測れない目に見えない力を育てる。それをやらなければ、教育に意味はありません。