新しく知った言葉「チート」 ――新語からわかる子どもたちの考え方―― | ことのは学舎通信 ---朝霞台の小さな国語教室から---

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考える力・伝える力を育てる国語教室 ことのは学舎 の教室から、授業の様子、日々考えたこと、感じたことなどをつづっていきます。読んで下さる保護者の方に、お子様の国語力向上の助けとなる情報をご提供できたらと思っております。

 わたしは、ことのは学舎という国語教室を主宰している。

 子どもたちに言葉を教えるのが仕事である。

 しかし、逆に子どもたちから教えてもらうこともある。

 

 最近子どもたちがよく使う言葉に、「チート」というのがある。特に、ゲームに関して使うらしい。その意味を子どもたちに聞いてみたところ、二通りの答えが返ってきた。

 

 ひとつは、ズル。ゲームにおいて、不正な方法を使うことをいうらしい。日常においても、ズルい行為をチートと呼ぶそうだ。

 英語のcheatである。この単語は学生時代に覚えて知っていたが、日常生活で日本語として使ったことはない。

 子どもたちの間では、ゲーム用語として広まったようだ。

 

 もうひとつは、スゴイわざや能力。不正やズルをしていないものに対しても使うらしい。

 本来の英単語のcheatには、そのような用法はないように思う。

 子どもたちの感覚として、「スゴイ」「ズルい」が近接しているために、両方に使われるのであろう。

 

 わたしが教えていた子どもの中に、「ズルい」が口ぐせの生徒がいた。自分ができないことを他の人ができると「ズルい!」というのである。言っているほうには悪意はないのだろうけれど、言われた方は不快である。

 その生徒が「ズルい!」と言うたびに、わたしは「ズルくないでしょ」と訂正していたが、その口ぐせは治らなかった。

 そもそも言葉は自分ひとりの認識だけで使われるものではないから、その生徒の周辺では、自分よりすぐれているものに対して「ズルい」と感じる認識が共有されていたのであろう。

 確かに、他の人が生まれつき身に付けている美貌や才能、財産に対して「ズルい」と思う感覚は、わからないでもない。人間は、生まれたときから平等ではない。

 一方、テストの点数のように本人の努力によって得たものに対して「ズルい」と感じるのはおかしい。子どもたちの間では、そのあたりの区別は曖昧になっているようだ。

 その結果、不正なことに対しても、正当に手に入れた高い能力に対しても、同じように「チート」と言うのである。

 

 二通りの「チート」の用法から、子どもたちの考え方が透けて見える。

 努力によって高い能力を手に入れることはズルくない、と子どもたちに教えてやらなければならない。

 

 「チート」の使い方は興味深い、というつもりで書き始めたのだが、最近の若者は……、みたいな論調になってしまった。

 子どもたちから、うるさい大人だと思われるであろう。

 

 言葉について考えることは、その言葉を使う人間の本質を考えることである。

 その人の本質の部分に、改善すべきところがあれば教えてあげたいと思う。余計なお世話だろうか。

 自分のことを棚にあげて、という批判は、謙虚に受け止めるつもりである。