朝日新聞に「きみが生まれた日」という不定期連載の記事があります。児童書・絵本の名作について、その誕生の経緯や作品に込めた思いを著者が語る、というものです。
昨日は、『どうぞのいす』について、作者の香山美子さんが語っていました。
『どうぞのいす』は、約40年前に出版され、今でも読み聞かせやお遊戯会の定番になっている名作です。
わたしも、娘の小学校の読み聞かせサークルで読みました。娘は、児童館のクリスマス会の朗読劇で読みました。
こんなお話です。
うさぎさんが小さないすを作って木の下に置き、「どうぞのいす」という立札を立てておいたら、そこにやってきたろばさんがどんぐりが入ったかごを置いて昼寝をした。そこにやってきたくまさんが、どんぐりを食べて代わりにはちみつを置き、次にやってきたきつねさんが……、といろいろなものの交換の場所になっていく。昼寝から目覚めたロバさんが、かごの中を見ると……。
記事の中で香山さんは、このように話しています。
「どうぞ」って、誰かに何かをしてあげる時の言葉であり、誘う時の言葉でもある。自分以外の人に対する思いやりの大切さを込めました。「二つあったら一つはあなたにあげよう」という単純な心を伝えたかったんです。
どうぶつたちはみんな、かごの中のものを食べたあと、「からっぽにしてしまってはあとのひとにおきのどく」と言って、代わりの食べ物を置いていきます。
この「おきのどく」についても話しています。
「おきのどく」って、子どもにとっては結構難しい言葉ですよね。「かわいそう」などのほうがわかりやすいかもしれない。でもあえて「おきのどく」にしました。そう書くことで、子どもはそれまで知らなかった言葉に触れて、面白がってくれるかなって思ったんですね。それと繰り返した時のリズム感が気に入りました。「どうぞ」と書かれているのに、何もないのでは気の毒よね。
「どうぞ」と「おきのどく」に、作者のこんな思いがこめられていたんですね。
ことのは学舎では毎回の授業で子どもたちに新しい言葉を教えています。新しい言葉を知ることは、新しい考え方を手に入れることです。素敵な言葉をたくさん知って、素敵な考え方ができる人間になってほしいと思っています。
香山さんの話を読んで、「どうぞ」と「おきのどく」も教えてあげなくちゃ、と思いました。
「どうぞ」と「おきのどく」が口ぐせになったら、それだけで素敵な人間になれそうです。
みんなが毎日「どうぞ」と「おきのどく」という言葉を口にする世の中は、今よりずっと幸せな気がします。
子どもたちに教えるのも大事だけれど、まずは自分の口ぐせにしよう。
こんな素敵な本、まだ知らない人がいたらおきのどく。みんなに教えてあげよう。
『どうぞのいす』、どうぞ読んでみて下さい。