終わり方について、ふたたび。 | ことのは学舎通信 ---朝霞台の小さな国語教室から---

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考える力・伝える力を育てる国語教室 ことのは学舎 の教室から、授業の様子、日々考えたこと、感じたことなどをつづっていきます。読んで下さる保護者の方に、お子様の国語力向上の助けとなる情報をご提供できたらと思っております。

 後味の悪い終局であった。

 

 将棋のA級順位戦、佐藤天彦九段永瀬拓矢王座の対局において、佐藤九段が長時間マスクを着用しなかったという理由で反則負けとなった。

 ニュース、新聞などでも大きく取り上げられ、将棋連盟の判定に批判の声が多く上がっている。

 マスクをしなかった佐藤九段が悪い、「反則ではないか」と連盟に告げ口をした永瀬王座が悪い、不適切な規定に従って警告もなく反則負けにした将棋連盟が悪い、など、三者とも、もっともな理由で批判されている。

 近いうちに将棋連盟から、この件についての見解が公式に発表されるであろう。はたしてこの結果が覆されるのか、経緯を見守りたい。

 

 日本将棋連盟は今年の2月に、対局中のマスク着用についての臨時規定を定めている。

 その第1条に、「対局中は一時的な場合を除きマスクを着用しなければならない。」と書かれている。第3条には、「第1条に違反した場合は反則負けとする。」と書かれている。

 この規定に照らせば、1時間以上マスクをはずしていた佐藤九段を反則負けとした将棋連盟の判断は、正しい。

 しかし、ものごとは正しいかどうかだけで評価できるものではない。

 

 今回の、佐藤天彦九段の反則負け、という結末は、誰も幸せにしない

 

 負けた佐藤天彦九段が不幸なのはいうまでもない。マスクをしなかった佐藤九段に非があるのは確かだが、盤外のことで負けになるのは納得がいかないであろう。将棋は81マスの盤上で戦うものである。名人復帰が遠ざかった佐藤九段の無念さは、想像するにあまりある。

 勝った永瀬拓矢王座も、幸せではあるまい。敗色濃厚な局面で、マスクについての告げ口で勝ちを手に入れたことは、永瀬王座の経歴の傷として一生残るであろう。今後永瀬王座が受ける誹謗中傷に耐えながら将棋を続けるのは難しいかもしれない。いばらの道である。将棋連盟は永瀬王座をしっかりと守ってあげられるであろうか。

 もっとも矢面に立たされるのは日本将棋連盟であろう。規定そのものが妥当であったか、将棋以外のことを将棋の勝敗に結び付けることが適切であったか、あまりに杓子定規に規定を重んじて名人を目指す棋士の気持ちを軽んじていないか、など、問題は多い。今後の連盟の運営が難しくなりそうである。

 将棋ファンにとっても、不幸なできごとである。ファンが見たいのは一流棋士の真剣勝負であり、美しい棋譜である。棋士のマスク姿が見たいわけではない。永瀬王座のファンでも、こんな勝利を喜ぶ気にはならないだろう。今期もし永瀬王座が名人への挑戦権を獲得しても、手放しでは喜べない。ファンは実力で勝ち抜いた棋士と渡辺名人との決戦を見たいのである。

 

 道理に合った正しい決着が、必ずしも最良の終わり方ではない。

 みんなが幸せになるには、どのような終わり方が適切であったか、考えてみなければならない。

 今回の反則負けという決着は、誰も幸せにしない

 

 ことのは学舎将棋教室では、いつも子どもたちに、詰まして終わる、詰まされて終わる、ということを意識させています。

 反則負けで終わるのは、勝者にとっても敗者にとっても、幸せなことではありません。

 将棋は、「負けました。」「ありがとうございました。」で終わるのが一番の幸せです。その上で、勝者も敗者も、いい対局だった、と思えるたら最高です。

 そんな対局ができるように、子どもたちには志を高く持って将棋に向き合ってもらいたいと思っています。