昨日、ことのは学舎で小学1年生の女の子と将棋を指しました。そのときに、面白いできごとがあったので書きます。
その子は駒の動かし方は知っているもののほとんど対局経験がない初心者でした。
私は19枚落ち(王1枚だけ)というハンデキャップをつけて対局し、2連勝しました。(ハンデはつけるけれど手加減はしません。)
するとその子は、3局目に新しいハンデキャップを希望しました。上手(わたし)は歩5枚(3七~7七)と王1枚という14枚落ち、さらに下手(生徒)は1筋と9筋の歩を落とす2枚落ち、というものでした。
このハンデには感心しました。
上手は前の対局より歩が5枚多くなっていますが、戦力としては上がっていません。むしろ自分の歩が邪魔して王の前方への進出が遅くなります。
下手は、駒が減っていますが指しやすくなっています。1筋と9筋の歩がないことで、飛車と角が端に出てからダイレクトに敵陣に進入できます。それぞれ2手で龍と馬が作れるのです。
上手は、歩しかない駒落ち戦ではまず相手の歩を取って持ち駒にし、と金を作って戦力を増やすことを狙うのですが、このハンデではそれができません。
下手は1筋と9筋から飛車と角を進出させ、歩は3段目に並んだまま全く動かさないので、上手の王は歩をとることも敵陣に進入することもできません。1筋と9筋は香車がいるので端から攻め込むこともできません。
下手が端の歩を2枚落とすことで、上手はまったく攻めることができなくなるのです。
案の定、対局は早々に下手(小1女子)が龍と馬を作って上手(わたし)の王に迫り、上手はひたすら逃げまくる、という展開になりました。
詰まされるのも時間の問題、というところでお母さんのお迎えが来て、対局は引き分けということになりましたが、このまま指していたら、わたしの完敗でした。
下手が端の歩を落とす、というのは非常に有効なハンデキャップだと感じました。
そもそも、将棋のハンデキャップには微妙な難しさがあります。上手の戦力を落とすだけでよいならばいくらでもできるのですが、将棋の面白さが減っては本も子もありません。いかに将棋の面白さを残しつつ戦力を合わせるかというところに、工夫が必要です。
将棋は非常によくできたゲームです。そのルールはほぼ完成されており、現状より面白くすることは不可能ではないかと思われます。
実際、江戸時代から現在に至るまで、ルールは一切かわっていません。
「変わり将棋」は何種類もありますが、どれも本家の将棋に較べると、面白さは格段に劣ります。
YouTubeの将棋チャンネルでは「全部飛車対全部角」「全部龍対全部と金」などの企画をやっているものもありますが、1回やれば十分で、すぐに飽きてしまいます。結局、本来の将棋に戻って来てしまいます。ルールに手を加えると、将棋の面白さがなくなってしまうのです。
面白さを失わずにハンデキャップを付けるために必要な、最低限の条件を考えてみました。やはり将棋の骨格の部分は変える訳にはいきません。将棋とは別のゲームになってしまいます。
わたしが考えた将棋のハンデキャップの際に守るべき条件は次のようなものになりました。( )内は、やってはいけないことの例です。
①それぞれの駒の動きは変えない。
(例:歩が後ろにも進める、桂馬以外の駒が他の駒を飛び越える、など。)
②初期配置は変えない。
(例:歩を5段目に並べる、王を5一と5九以外に配置する、など。)
③8種類の駒をすべて使う。
(例:全部飛車、全部と金など。)
結局、上手が枚数を減らすのがもっとも適当な方法ということになります。
減らした駒を最初から下手の持ち駒にすることも考えましたが、面白さをそぐ気がします。相手の駒を取って戦力を増していくことも、将棋の面白さの一つです。
さて、こうして考えていくと、今回小1女子が提案したハンデは画期的です。わたしは、上手が駒を落とす、あるいは、せいぜい下手が駒を増やす、ということしか考えていませんでした。
下手が端歩をなくすことで有利になる、という発想はありませんでした。
確かにこの方法だと下手の攻めのスピードが格段にあがります。ほぼ確実に下手が勝てる上に、龍と馬で王を追い詰めるという将棋の醍醐味が味わえます。
初心者が楽しみながら勝って将棋を好きになるのにうってつけです。
しかも、こんな方法を初心者の小学1年生が思いついたというのは、すごいことです。おかげで駒落ちについて色々と考えるきっかけにもなりました。
これから初心者と対局するときには、下手の端歩2枚落ちをやっていこうと思います。
もっとよいハンデの付け方がないかも、考えていこうと思います。
小学1年生の発想に、感謝、感謝。