人称代名詞は難しい! | ことのは学舎通信 ---朝霞台の小さな国語教室から---

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 昨日に引き続いて、人称代名詞の話です。

 

 最近、英語で三人称単数を表すときに、he、sheではなくthey が使われるそうです。

 この情報は、Kevin's English Roomではなく、以前新聞で読んだように記憶しております。

 he、sheと呼ばれたくない人への配慮からだそうです。

 人称代名詞のジェンダー・フリーです。

 

 同じようなことは、日本語では一人称単数で起こっております。

 人前で、自分を何と呼ぶか、という問題です。

 日本語の一人称単数代名詞は、相手との関係によって、「わたくし」「わたし」「ぼく」「おれ」「うち」「おいら」など細かく使い分けされます。

 人称代名詞で自分を呼んだ時点で、自分が相手をどのようにとらえているか、あるいは、相手から自分がどのように扱われたいかが、提示されます。

 どの代名詞も、しっくりこないこともあります。

 最近、小学生の女子の間で自分を「ぼく」と呼ぶ子どもが多く見られます。

 周りの人から、「ぼく」と認識してもらいたい、という気持ちの表れでしょう。

 小学生女子で、「わし」という子もいます。

 「ぼく」も「わたし」も「おれ」も「うち」も、自分にはなじまないと感じているのでしょう。

 「わし」と自称することは、それらのどれとしてもとらえられたくない、という気持ちの表れです。

 「わし」と自称してもおじいさんだと誤解される余地はないので、どのカテゴリーにも入れられたくない自分を表すのに適切な表現です。

 おそらく本人はそこまで考えて使っているわけではないと思いますが、「わし」と自称することに居心地のよさを感じているのだと思われます。

 

 さて、わたしについて。

 このブログでは、大体「わたし」を使っています。「私」と漢字を使うときもありますが、漢字だと「わたくし」と読まれることもあるので、「わたし」と読まれたいときは、ひらがなを使います。

 論文を書くときは、「わたくし」とひらがなで書きます。

 ブログや論文のような、不特定多数の未知な人を対象とする場合は「わたし」「わたくし」でよいのですが、いつも困るのは生徒に対して自分のことを言うときです。

 「先生は~」と言うのには、抵抗があります。「先生」という呼称には、敬意を伴う(あるいは、からかいを伴う)ので、自分に使うのは滑稽に感じてしまいます。

 いつも顔を合わせている小中学生に「わたし」「わたくし」は堅苦しくてよそよそしくて、違和感があります。

 「オレ」はくだけ過ぎているし、「ぼく」は子供っぽくて、しっくりきません。

 しかたなく、「先生は~」と言ったりしますが、小声で早口になってしまいます。

 こういうときは、すべて「I」で済ませる英語が、ちょっと羨ましくなります。

 何か良い一人称代名詞はないでしょうか。

 われ。おのれ。わがはい。おいら。おれさま。せっしゃ。どれもダメみたいです。

 迷いは続きます。