人間の下位の三つの媒体であるエーテル複体(肉体とエーテル体)、アストラル体、メンタル体が一生かぎりであるのにたいして、メンタル体よりもさらに高次元にあるコーザル体は、何回も輪廻転生をくり返しつつ人間の進化の過程を通して保たれる比較的に不滅の存在といえます。また、コーザル体は地上生活の間に放った善い想念感情だけを取り入れる容器であり、貯蔵庫としての働きをします。

死に際して、肉体、アストラル体、メンタル体が消滅しても、コーザル体が消滅することはありません。そして、次ぎの生まれ変わりに善い想念感情はそのまま持ち越されます。これが霊的進化につながることは、いうまでもありません。

「因体」とも書き表すコーザル体はサンスクリット語で「カーラナ・シャリーナ」といいます。カーラナは原因という意味です。この名がついたのは、この体の中にそれより下の各界層で結果となって現れる原因を宿す体ということからです。「コーザル体は各生における体験をいわば篩(ふるい)にかけた後に残るもののうち、長続きしうるものはすべてその中に織り込み、美徳の胚種となるものを貯え、次の生まれ変わりまで持ち越すものである」(神智学大要 第四巻『第十五章 コーザル体の機能』)といわれます。行為の原因となるものは過去生における体験であり、コーザル体の中に蓄積されています。

ところが、霊的にあまり発達していない通常人のアストラル体は、肉体や低位メンタル界から来る刺激にすぐに反応してしまう傾向をもっています。これは、たいていの人は意識の中枢が「欲望-精神(カーマ‐マナス)」に固着しているためです。低位メンタル体つまり下位精神(マナス)と粗雑なアストラル質料から成る欲望(カーマ)が強くからみあった状態です。

これが習慣となって自動的に同じ波動をくり返すという傾向をもつと、望ましからぬ悪想念をひきつけてしまう磁石のような作用をすることになります。精神と欲望が戦っているうちに、高位マナス(精神)と下位マナス(精神)を結ぶ銀の糸がプツッと切れてしまうことさえもあります。

こうして、人間は物質生活の中でしだいに肉体の感覚から来る欲望に引き回され、低位メンタル界から来る利己的な想いに支配されて一生を送ることになりがちです。これはアストラル体の粗い質料ばかりを使い、精妙な質料のほうは未開発である状態です。このため霊的に未発達な人間においては、本来なら卵型をしているアストラル体は、下のほうが膨らんだ形状を呈します。つまり、アストラル質料の各層の偏りがそのまま全体の形の歪みとして現われたということです。

利己的な想い(メンタル)も、利己的な感情(アストラル)も、必ずそれに対応するメンタル界、あるいはアストラル界の粗い質料の波動となって現われるわけですから、こうなると、その精神活動もメンタル界の低い層にとどまることになります。

ということは、コーザル界からやってくる高次の叡智とつながりにくくなり、死後もコーザル体を発達させるための構成要素である善き想念感情を加えることなく、次ぎの生で改めて再構成されるメンタル体やアストラル体に前生で生じさせた悪想念を持ち越すことになります。

だから、霊的に進化するためには、生きている間、この地上生活においてアストラル体やメンタル体の精妙な質料をもっと使うことが必要になります。 そして、進化するにつれ意識の中枢は上へ上へと動きます。すると、人は興味や欲望に引き回されて生きるよりも、宇宙の法則や生命原理則にしたがい、より自由な生き方へとシフトしてゆきます。

善良なる、非利己的な思いや感情は、メンタル、アストラル各々の界層の高級な質料を振動させるから、これによって、もっとコーザル界が近くなり、高尚な想いや感情を常に受け取ることができるようになるというわけです。