生来のあまのじゃく気質で子供の頃から流行に乗っかるのが苦手な性格であるため、活字中毒のくせにベストセラーの本を人気絶頂中に読むということはまずなかった。
しかし、家族が買って家にあったこと、そして意味深で意外性あるタイトル、装丁のイラスト、帯の言葉に強く惹かれ(←ここまで言い訳しないと恥ずかしいのだ)、手に取って読み始めたのが今年の本屋大賞を受賞したこの人気小説。
これまで読んだ数多の本に登場した魅力的な主人公をたくさん知っているので、帯の「かつてなく最高の主人公」とまでは賞賛しないが(これもあまのじゃく気質)、それでもぐいぐい読み進めさせてくれるほど惹かれるキャラクターであった。
「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」
一学期の最終日である七月三十一日、下校中に成瀬がまた変なことを言い出した。いつだって成瀬は変だ。十四年にわたる成瀬あかり史の大部分を間近で見てきたわたしが言うのだから間違いない。
という、実に誘惑的な文章に続き、現実あったコロナ禍に閉店を目前にするデパート・西武大津店に毎日通ってテレビ中継に映るという行動を始めるのである。
そんな「成瀬あかり」こと「成瀬」の個性的な生き方の物語である。
決して突飛な設定ではないが、舞台である滋賀県大津市のリアルな光景と若い登場人物たちのいきいきとした姿を描いた作者の筆力が見事で、とても面白かった。
読み終わる頃には、「成瀬」が身近な人物に感じたほどだ。
そして続編も早速手にした次第。こちらの最終話が特に秀逸だった。
読み始めてほどなく、地元新聞に以下の記事が掲載された。
小説に登場する大津市の店や観光地は実在するものを描いているので、本を読んだ多くの人が「聖地巡礼」のごとく訪問するのだそうだ。
写真や動画で観光的な効果を生んだ事例は数多く知っているが、小説がこれほどの影響を与えた事例はなかなか聞かない。
この本をきっかけに、ほとんど本を読まないという世代の方々が「読書」体験をする動機になることを、間違いなく本を読むことで人生をふくらませてきた私は願ってやまない。
大津市に行って、成瀬に会いたいなあ。
以下記事も参照まで。
《天衣無縫で泰然自若、最高・最強のヒロイン》「成瀬あかり」を描いたシリーズが75万部を突破[文芸書ベストセラー](Book Bang) - Yahoo!ニュース