知人のSNSで存在を知ってすぐに購入した本を読み終えた。
まっくら―女坑夫からの聞き書き(森崎和江/岩波文庫)
帯にもあるが、1961年に出版された本が60年後の2021年に文庫化されたのだという。
私と苗字が同じである作者の森崎和江さんの存在はしっていたが作品を読んだことはなかった。しかもサブタイトルの中に「坑夫(こうふ)」という言葉があるので読まないわけにはいかない。
坑夫とは、当社の本業であるトンネル工事の掘削作業に従事する作業者のことである。鉱山や炭坑で採掘作業に従事する方もそう呼ばれる。
つまり、ざっくりいえば山に穴を掘る作業に従事する方のことだ。
労働基準法の第64条の2では以下のように定められている。
使用者は、次の各号に掲げる女性を当該各号に定める業務に就かせてはならない。
1.妊娠中の女性及び坑内で行われる業務に従事しない旨を使用者に申し出た産後1年を経過しない女性・・・坑内で行われるすべての業務
2.前号に掲げる女性以外の満18歳以上の女性・・・坑内で行われる業務のうち人力により行われる掘削の業務その他の女性に有害な業務として厚生労働省令で定めるもの
つまり、坑夫の仕事に女性が従事することを禁じているのだ。
よって、このサブタイトルにある「女坑夫」という言葉は現代日本でないのだ。
※詳しくは以下参照
https://www.kisoku.jp/josei/josikounai.html
この本は、その法律が出来る以前、炭鉱で坑内作業に従事していた10人の女性たちの証言を九州弁そのままに聞き書きしたものである。
表紙に特異なパワーを感じたが、中身もまるで怪奇小説かのような異様さと圧倒的な力を感じた。
そして、こんなとんでもない労働環境があったのか、と打ちのめされた。
結果、女性の従事を禁じたのは当然と思えるようなひどい仕事ぶりである。この法律は当時としての「働き方改革」であったのだろう。
証言をいくつか引用したいが、安易にどこを紹介していいか分からないほどで(以下のように付箋まみれになった)、
これは読んでいただくしかない。
一文だけ紹介すると、
あんなひどいことしてよう生きとると思うばい。
トンネル工事に携わるものとして、いろいろ心に刺さるものがあったし、歴史を知れる多くの事実も学んだ。そして私の先祖たちもこれくらいの思いをしながら仕事をしていたのかと想像すると、深い敬意と感謝の思いも湧いてきた。今後の私の取り組みにも大きな影響が出ると思っている。
その一方、現在のトンネル工事のほとんどは機械化され、もちろん大変な作業ではあるが、大変さの質は全然違うと思う。そして女性も十分従事出来ると考えている。
今は掘削作業に一切関われないことになっているが(現場監督は可能)、人手不足という大きな課題を考えれば、法律を変えてもよい時代であると思う。
いろんな意味で歴史に残る、いや残すべき名作だ。
あまりの衝撃に、今関連の本を入手中。