非常に面白い小説を発見し、読了。
「開化鐵道探偵」(山本巧次/東京創元社 ミステリ・フロンティア)
舞台がなんとトンネル工事の現場の推理小説である。
しかも土木史に残る、明治初期に日本人だけでの力で初めて完成させようと施工中の、実在の逢坂山トンネル。
そこで次々と危険な事件が起こるのだ。
私はさわりだけ現場の話なのだろうと思って手にとったのだが、最後の最後まで現場(および周辺)が舞台となっている。
逢坂山トンネルの歴史、施工方法、そして関係者(井上勝、藤田伝三郎ら)なども基本忠実に描いた中でのミステリなので、平行して日本の鉄道工事黎明期の逸話や、当時の苦労、背景なども学ぶことが出来るというのがよい。
しかもミステリとしてもしっかり筋書きが面白く(発売年の各種ミステリランキングに入ったほど)、いわば物語を楽しみながら鉄道や土木の歴史や世界を学べるというのも業界側からするとありがたい。
少し前に「物語の有効性」と題して、医学ものの小説で医療問題を問いかける仙川環さんを紹介し、以下のことを書いたばかり。
考えるべき問題をストレートに「これはこれこれこうなっているのが問題である!」と説いても、実際にはなかなか伝わらないものだ。
このようにエンターテインメント的物語に映し込むことでより実感が出来る、というのも広報的手段の一つであるということを仙川さんの小説を通して気づいた。
https://ameblo.jp/kotobuki5430511/entry-12598646756.html
まさにこの小説は、われわれがストレートに広報しようとしている土木やトンネルの魅力を、物語の中で発信しているといえよう。
作者は鉄道趣味歴45年、鉄道会社勤務歴30有余年というから、そういう役割にドンピシャリの方である。
この手法をヒントにすると、建設関連団体が資料や情報提供することを前提に作家、一般の方から土木をテーマにした小説を募集する、というのはありではないかと思う。
さらにいえば、有名作家にお願いして取材全面協力OKで物語を書いてもらうというのもいいかもしれない。