時代の華!「頂き女子りりちゃん」を思う | 寝ぼけ眼のヴァイオリン 寿弾人kotobuki-hibito

今回は、いまさらなのですが、有名な頂き女子りりちゃんについてです。

この間、一審判決があったのですが、ネタとして世間を騒がせたのはもう半年以上前です。

 

なぜいまこの話なのかと言うと、この半年ほど、まだ若い女性のゲーム実況ユーチューバーさんの推し活をしていて、結構、気になる言動がたくさんあったんですよね。

あ、ちなみにこのゲーム実況の方は、本業のゲーム実況でそれはそれはすごい才能を持っています。編集しても生配信しても見事にクリエイティブな仕事をされている間違いない才人です。とはいうものの、ユーチューバーですから純粋なクリエーターというわけではなく、職業としてはインフルエンサーです。つまりは結局はフォロワーが多くなければ食べていけないし、成功にもならないという人気商売。

そこでその方がファンの人を転がしたり、ファンを掌握したり、太客から投げ銭をもらったりという方法を見ていると、「ほう、やはりこれはキャバクラやホストと同じ水商売なのだな」と思うようになりました。これは仕方がないことだと思います。そういう職業なのです。

 

で、だいたいユーチューバー事情について学べたのでお腹もいっぱいになって、熱烈な推し活を引退したのですが、「あれ?そういえば、頂き女子りりちゃんって、なんとなく想像できたからあまり調べなかったけれど、実際のところ、どんなマニュアルを作っていたのだろう?」と気になったのです。その推しユーチューバーの方が使った「信頼関係」というワードに聞き覚えがあって、「これは確かりりちゃんのマニュアルにあったような…」と思ったのです。

そこで、この頂き女子りりちゃんのマニュアルを入手して読んでみました。

 

感想は……

よくできてるじゃん!!

 

まじ、才能ある!

 

まずこのマニュアル、読みやすい!

文章も易しくて、文字数も少ないけれど、ビシッと伝わる。

タイトルがいいですよね。「1カ月1000万頂く頂きりりちゃんの【みんなを稼がせるマニュアル】」。

これだけで、貧困女子に突如現れた「神」って感じですよね。

若くて貧乏で未来に不安を持つ女の子たちがそりゃ、崇めるわけです。時代の救世主?!

 

内容もA4で40ページ近く。こういう誠実な仕事は珍しいです。非常に優秀な情報商材!

 

普通ね、こういうのは詐欺ビジネスだったりします。「3年で1億稼いだ私が教える必勝セドリマニュアル」なんて銘打って、1万円支払わせて送られてくるのは内容が数枚のペラペラマニュアルだったりする。書いてあることも誰でも知っているようなことなのだけれど、カラー印刷で高級感はある。そして深く知りたければ、会員制のセミナーへの参加を呼びかける。

まあ、ぼろ儲けですよ。

この詐欺ビジネスは、希代の詐欺の神様である安倍さんの政権下では、その時代の空気を見事に反映して、オレオレ詐欺と並んで雨後のタケノコのように生まれました。「詐欺」とはいっても、対価となる情報商材は渡しているわけで、客が「こんな内容で1万円とはけしからん!」と訴えても、詐欺としては立件できないんですよね。

 

ところがです!

頂き女子りりちゃんのマニュアルの素晴らしいこと!

この人、本当に心を込めて、自分の試行錯誤の結果得たノウハウを一生懸命伝わるように文章や構成を考えて、多くの貧しい女の子を助けたいと本気で思ってこのマニュアルを作ったんだろうなあということが伝わってきます。

この仕事にものすごいプライドがあったことがわかるのは、騙したオジのアフターケアまでマニュアル化していることです。超一流の詐欺師は、相手が騙されたことに気づかない仕事を目指します。これはまさにそれ。おそらくりりちゃんは、この「頂き詐欺」を自分の天職だと思ったでしょうし、このマニュアルを買った女子がくれる「お金を稼げた!ありがとう!」というメッセージを見ては、ニヤニヤしながら社会に貢献した喜びを感じていたのだろうなあ。

 

あのねえ、この記事のタイトルでは「時代の華!」としていますが、本当は「時代の徒花!」にしようかなとも思っていたのですよ。でもさ、なんか私はこのりりちゃんを憎む気にはやはりなれない。

だっておそらく、騙されたオジは騙されている間、ずっと幸せだったのだろうと思う。もし、このりりちゃんがオジたちを騙していると最後までばれなければ、このオジたちは幸せな気持ちで死んでいったかもしれない。

そういう「優しさ」がりりちゃんにはある。

 

私にも正義感はあるけれど、作家なので正義感自体を胡散臭く眺めている。だからテレビのニュースで3500万円貢いだ被害男性が「許せない。心から憎んでいる。極刑にしてほしい」などと、自らの非はなかったかのようにインタビューで話しているのを見ると、「お前もいい加減にしろよな」と思ってしまう。若い女の子から愛情をもらい、支配できるなんていうありえない己の欲望に狂喜乱舞して周りが見えなくなったのは、ほかならぬ、あなただろうと思ってしまうのだ。それは自業自得だと思う。

 

たぶん、りりちゃんは、嘘を言って騙す中で、喜々とした表情で工面したお金を渡してくれるオジの姿を見て、嬉しかっただろうと思う。「ああ、自分はいいことをしている」と彼女は思ったはずだ。そしてそのオジにとっても、退屈で面白くない飽き飽きする日常が、その時ばかりは充実して光り輝いていたはずなのだ。

いま作っている小説の材料として、トー横キッズを取材したテレビドキュメンタリーを見たことがあるけれど、そのワンシーンが彼女に重なります。中学生くらいの少女がSNSで売春の申し込みがあって、スキップしながらその待ち合わせに出かける姿。彼女は「寂しいオジを喜ばせてあげよっ!」と嬉しそうに呟いていました。少女の明るさがとても切ないシーンです。

 

先日、西新宿のタワーマンション前で殺されてしまったキャバ嬢でライバーの女性は、生前の生配信で「普通は危ない客から手を引くけれど、私は引かない。不愉快にあった迷惑料としてむしれるだけむしりとる」と言っていたようです。自身は既婚者なのに相手に結婚を匂わせて金を引っ張れるだけ引っ張り、財産を吸い尽くしたらストーカー扱いもしたようです。ここにはまったく人情の欠片も、相手への優しさもありません。

りりちゃんには、そういう「奪い取る」という自意識はないんだよな。彼女が「頂く」とか「信頼関係構築」というワードを使うのはその表れだと思う。

 

マニュアルを読むと、次は生身のりりちゃんを無性に見たくなります。はたしてどんな人物なのか?

ユーチューブを探していたらありました。

2年ぐらい前、「コレコレチャンネル」という配信者のチャンネルにりりちゃんは取材を受け、この配信者の追求によってすべての犯罪行為を暴かれてしまいました。その動画はいまも見ることができます。

 

動画で見る生身のりりちゃんは、気のいい普通の女の子でした。ただしものすごい世間知らず。

多額の贈与に税金が発生することも知らず、「ギバーオジ=夢や希望がなく、寂しい、癒しを渇望するオジ」からお金を頂くのは、ある意味、その人に生きがいを与える善行だと信じていたのだと思います。そしてそのノウハウを多くのお金に苦しむ女子に広めて、みんなから喜んでもらえる充実感。

このコレコレチャンネルの動画が面白いのは、こうしたりりちゃんの信念がこのチャンネルの配信者によって詐欺だと指摘され、「あなたのしていることは犯罪だ」と追及され、りりこちゃんがショックを受けていくさまを見ることができるからです。

そして彼女は「この取材動画を配信しないで」と電話で訴えますが、それも論破されてしまいます。

このくだりは、「哀れ」としか言いようがありません。本当に胸が痛くなります。

配信者の言い分は正論で彼女はどこをどう見ても犯罪者なのですが、なんというか、砂場で無邪気に遊んでいた結果、知らずに多くの人を殺してしまった少女のような哀れさがいっぱいなのです。

報道によれば、彼女はDV気質の父と愛のない母の家庭で生まれ、中学生くらいから家に居場所がなくて家出を繰り返し、学校でもいじめにあい、その結果流れ着いた新宿を根城に、人生で初めて自分の能力を見つけ、多くの女の子から喜ばれ尊敬されるという体験をしたのです。

一方で、負けず嫌いなのでホストクラブで金をつぎ込むようになり、そこでは自分が金づるとなって虚栄心や自尊心を満足させる日々。これも彼女にとって、人生初の喜びだったでしょう。頂きで大金を稼ぎ、それをすべてホストクラブに貢ぐという自転車操業の暮らしは、最初はキラキラしていましたが、徐々に空しく感じ、足を洗おうとしていた矢先の逮捕でした。

まあ、パパ活や水商売は金銭感覚がバグりますから、そのままでは普通の仕事には我慢できません。「これだけ働いて、たったこれだけの収入?!」とどうしても思うようになるからです。(ちなみに株の世界も同じで、私も1日のトレードで30万円稼ぐようなことを頻繁にしていたせいで、もう普通の仕事に戻る気は起きません。いま含み損がものすごく膨らんでいるのは、「稼ぐのは簡単ではないのだよ」ということをもう一度、骨身にしみこませるいい機会だと思っています笑)

そういう点では、りりちゃんに下された10年という実刑は、もう一度、金銭感覚をリセットさせるリハビリとしてはいい機会かもしれません。

 

りりちゃんの動画で興味を覚えたユーチューブの「コレコレチャンネル」でほかの動画を見ていたら、いまの若い人はすごいことになっているなと思いました。

印象に残ったのはやはりユーチューバーです。

 

ひとりは「余命4カ月」を売り文句にした男性ユーチューバーの若者で、この方はそれをネタにしてリスナーの同情を買い、投げ銭で収入を得ていました。コレコレチャンネルの追求によって、過去動画で見せた診断書が、ネット上の診断書の見本画像から作られた偽物であることや、病院の一室という動画の場所がレンタルスタジオであることや、アップしていた処方箋と薬が知り合いのものであったことが暴かれていきます。さらには追い詰められると、この若者はファンのリスナーに協力してもらい、コレコレチャンネルを貶めるニセ動画を制作したりまでします。

一生懸命、嘘に嘘を重ね言い訳するこの若者の気持ちを考えてみました。この若者としては、自分が配信しているのは「エンターテインメント作品」だと思っていたのでしょうね。まあね、いまは限りなくドキュメンタリーであると謳った恋愛ショーなんかがたくさんあります。それと同じノリなのだと思います。

確かにコレコレチャンネルの配信者のように「嘘を配信して金をだまし取った」と非難することもできます。しかし小説家のはしくれとしては、モヤモヤします。巨大産業であるテレビ局やネット配信社が作ったリアリティーショーで出演者が自殺しても、まだこういう詐欺まがいの番組は作られているのに、なぜユーチューバーは同じようなことをして微々たる金を稼いだらいけないのでしょうか?

彼はおそらく「世の中は不平等だ」と思うでしょう。しかし私に言わせれば、古今東西、世界はずっと不平等であり続けているのです。いまの日本では政府が国民を詐欺の相手にして、その犯罪事実を隠そうともしていません。そしていまの若者の多くも、こうした時代の空気を吸って、軽はずみな思い付きでこの不平等をひょいと乗り越えようと夢見るか、暴力によって手っ取り早く目先のほしいものを手に入れるかという風潮に傾きやすくなっています。

 

まあ、それにしても嘘で嘘を上塗りし続けるこの若者を見て感じるのは、これもSNSというものの業だなということです。

SNSはまったく知らない人を簡単に友達にしてしまう装置です。

配信者から見れば、身元が特定されないよう気をつけさえすれば、インチキな自分を作り上げて、インチキな設定でリスナーと話をし、リスナーはそのインチキな配信者の姿を信じてファンになります。

「インチキがばれなければ、罪にはならないのではないか?」

「作り話をしたからって罪にはならないでしょ。だって話を盛って聞き手を楽しませたかっただけなのだから」

それがいまの若者の倫理観です。

問題はこうした他愛ないはずのインチキが「お金と結び付いている」ことをあえて自ら無視していること。

お金が絡めば、他愛ない嘘でも詐欺と呼ばれます。(正確には「詐欺的行為」です)

頂き女子も、さっき記した「情報商材」を売りつける詐欺ビジネスも、さらには最近の有名人を騙った投資詐欺もそうですが、SNSは詐欺の道具としては本当に使い勝手がよく、人によっては、特に若者は無自覚で詐欺に足を踏み入れることになります。

 

印象に残ったもうひとりのユーチューバーは、先ほどから出てきている「コレコレチャンネル」です。

このチャンネルは、不特定多数の方からの告発や依頼を受け、犯罪やトラブルをリアルタイムで解決していくリアリティショーです。当事者を電話でつなぎ、対立する双方に主張させ、その言い分を証明するもの、会話の録音やLINEのスクショなどをその場で送ってもらい吟味し、何が真実かを明らかにしていくコンセプトです。

このチャンネルはまさに法廷を傍聴しているのと同じ興奮を味わうことができます。

配信者のコレコレさんは、非常に高いスキルをお持ちで、そこらの弁護士よりもよほどてきぱきと論点と事実を整理していきます。その手腕は本当に惚れ惚れします。

そして、単なる暴露系ユーチューバーだったガーシーさんとはまったく異なる手法で、こういうチャンネルが人気を集めているのはまさにいまの時代の空気を感じます。

私はこのコレコレさんに最大の敬意を持ちつつ、かなりひねくれているので心配にもなります。

正義と真実を明らかにするこの配信者は、長く配信をするうち、おそらくその行為に疲れてくるでしょう。

事件の真実を明らかにしてみせるという行為で、配信者は毎回、全知全能の高揚感に支配され、そのうちその全知全能の感覚が彼の内面を徐々に腐食させ、人生を狂ったものにしていく可能性もあると私は思います。

個人の運営する狭い空間での法廷は、日々、もっと刺激のあるリアリティショーを追求する必要があり、狭い価値観と偏った正義感を育むことにならないか。

そんな危うさも感じる番組です。

 

それにしても、こうした世界は、去年に推しのユーチューバーさんに出会い、熱心に応援することをしなかったら決して理解できなかったものばかりのような気がします。

いま感じているのは、若い人たちが感じている時代の空気です。

本当、新しい分野にはなんでも首を突っ込んでみるものです。

退屈なことなどおそらくこの世の中にひとつもないのでしょうが、ユーチューブを始めとするSNSの世界は、そのいかがわしさも含めて本当に刺激的だと思います。

こうした世界に飛び込む若者たちが、無事に長い人生をサバイブできますように!