THE CAT


人はそれを黒い悪魔と呼ぶ。


呼んでへん、呼んでへんヽ(`Д´)ノ



いかにも黒くていかつい見た目なのに、CATって、なんで?

愛らしさから一転、鋭い爪を出す、そんな豹変振りを表してるの?


この高速船、THE CAT、同じ航路をゆく 「スピリッツ オブ タスマニア」 と比べて格段に速い。

そら高速船だから当たり前。


時間のない旅人にはさぞかし喜ばれるだろうと思いきや、同じワーホリの中でも乗ったという人に

出逢ったこともないし、ましてや勧められもしなかった。


なんで?


ここまで書いてて、なんだかTHE CATに変な先入観を与えてしまっているようで申し訳なく

思ったりもするのだが、さらにここから追い打ちをかけてしまいそうな予感。


食事中や、これからお食事をされるかた、お食事をとって間もない方は、スル―なさってくださいね。


では、ここから、通称:デビルキャットの本領発揮と参ります。




アデレードから列車でメルボルンに入った翌日、バックパッカーからはタクシーで港へ。

タスマニア島の旅の友は、ノースマン、キャサリン、そしてアデレードで一緒だったカドくん。


メルボルンを出港してしばらくはとっても天気がよく、「タイタニックどこでできるのー」などとたわけたことを

言っていたふたりですが、そのうちとっても眠くなり、船内でごろーん。

日本と違って、AUSは何に対しても結構ゆるーいお国柄ゆえ(?)、床でごろーんとかしてても

なんら目立つことはなく、ごく当たり前の情景(笑)です。


船内はかなり豪華に見えました。

ですが、実はあまり記憶にないのです。

いろいろ歩き回って見たはずなのですが、ほとんど覚えてないのです。

おそらく、あまりにも精神的・肉体的にきつい経験をしたので、脳が「忘れさせた」のではないでしょうか。


覚えていると言えば、お手洗いはかなりきれいでした。



そうそう、私、乗り物酔いは中学くらいまでひどかったのですが、社会人になってからは車も

船も結構強くなりました。予防のため、酔い止めはのみますが、なくても大丈夫。


この日は、AUS初めての高速船なので、もちろんのみました。

それもあってか、眠くなっちゃったんでしょうね。


みんなと同じように床でごろーんしてた時のことです。


突然、ドーン!!! とものすごい音とともに、高速船が大揺れしました。


クジラか何かに衝突したと周りで騒いでいます。


それからしばらくして、船は急にスピードをゆるめました。

クジラではなく、大きな波にぶち当たったようです。これから先も、天候が悪く海が荒れているとか。


タスマニア、晴れてるといいんだけど・・・。


そんなのんきなことを考えていると、どんどん揺れが激しく止まらなくなってきました。

カドくんと言葉を交わす余裕もなく、目をあけていると、グルグル回ってくるような感覚に。


あ、やばい。船酔いするかも。


とりあえず、また床にごろーんして寝ることに。


ですが、いったん酔い始めるともう遅い。

もう船は平衡を保つことができず、どこかに、何かにつかまっていないと転げまわる状態です。

床に寝ていても勝手にごろごろしてしまうほどに。こんなの映画やテレビでしかみたことない。


やがて、その時がやってきました。


あ、我慢できん(涙)


急いで立ち上がるも、揺れがひどくてまっすぐ歩けず、こけまくる乗客たち。

乗務員さんはそんな乗客たちに例の袋を配って歩いてるのですが、乗務員さんもフラフラです。


床を這ってやっとの思いでトイレに行くと、そこは青い顔をした乗客たちの長蛇の列。


その列にも、例のものを配る乗務員さん。


とにかくトイレに入るまで我慢するんだ! と気力を振り絞る。

あ、いや、我慢できないのは大でも小でもなく・・・。


やっと自分の番が回ってきて、個室のカギを閉めた途端、ああ・・・(以下自粛)。


おなかのもの全部吐き切って一瞬スッキリしたものの、まだまだ揺れが続く中、その揺れとともに

どんどんやってくる吐き気・・・。冷や汗タラタラ・・・。唇が冷たい・・・。

食道に傷がついたのか、そのうち吐くものが赤くなってきた(涙)


ああ、もういや、助けて。


この時ばかりは苦しさでもうどうしようもありませんでした。


やがて本当に吐くものがなくなり、胃もあきらめたのか、吐き気がほんの少しだけマシになりました。


風に当たればマシになるかな・・・。

フラフラと転げながらデッキに出ると、雨と波とでずぶ濡れに。

仕方なく船内に入り、鞄の所へ戻ろうとしたところで再び気力がなくなり、その場で動けなくなった。


船内放送が入り、速度を落としたため、タスマニア到着まで予定の倍の時間がかかるとのこと。

さらに倍の時間この苦痛に耐えねばならぬのか・・・。


例えはよくないかもしれないけど、事故現場で救助を待つ大勢の負傷者が横たわっている、

船内はまさにそんな光景でした。


そしてその中に私もとうとう倒れ込み・・・。


気がつくと、乗務員さんがかけてくれたのか、毛布が。


周りには、同じように倒れている人たちが大勢います。フロア中にです。


ああ、これがデビル・・・、まさしくデビルキャット・・・。


なぜか冷静にそんなことを思った私ですが、毛布の温かさに負け、ふたたび倒れ込む。


それから何時間経ったのだろうか、あれだけ揺れていた船が落ち着いています。


周りで横たわっていた人たちも、少なくなっています。


終わったんだ、もうデビルの時間は終わったんだ・・・。


ほっとして、立ち上がると、まだ少し揺れていましたが、それは船酔いした自分のせいでした。


鞄を置いてある所へ戻ると、カドくんが寝ていました。


私が戻ってきたことに気付き、「大丈夫でしたか?」 と・・・。


「苦しかった」 とひとこというと、「こんなこと言ったら不謹慎だってわかってるんですけど・・・」 と・・・。


修羅場と化した船内の様子は、テレビで見た“地下鉄サ●ン事件”の現場そのものだったと・・・。


私を探してくれたのだけど、足の踏み場も危ういほど人が横たわり、なおかつまともに歩けない状態で

無理だったとのこと。どれだけ悲惨な状況だったか、このブログの文面で伝わるかどうだか。


こんなに苦しい船酔いは、後にも先にもこの時だけです。


とりあえず記念撮影したら、顔は笑ってたけど、すんごい辛かったんですよね(笑)


結局当初の予定時間を1時間半オーバーして、デビルキャット・・・、THE CAT はタスマニア島に到着。

めっちゃ晴れて、いいお天気(^^)


やっぱり、でしたが、船が遅れたからといって、バスが待っててくれるはずもなく、ロンセストン行きの

最終は出てしまった後。今日ロンセストンのレンタカー屋さんで車借りることになってるのに・・。

どうしよう、明日のバスまで待って、今日は港で野宿するしかない・・・?


とりあえず、インフォメーションセンターで聞いてみようと、港にカドくんを残し、てくてく歩いた。

あら、結構体力残ってるわ。


インフォメのお姉さんに事情を説明したけど、もうバスもないし、どうしようもないわね、と言われた。


しかーし!


デビルの洗礼を耐え抜いた子羊を神は見捨てはしなかったのである。


隣で一部始終話を聞いていたお兄ちゃんが、「よかったら送ってあげるよ」と声をかけてくれた。


「彼女に聞いてみるから待ってて」 とお兄ちゃん。快くOKしてくれた彼女はめっちゃキュート!


まだ発売される前なんだよ、と新車に乗せてくれ、港までカドくんを迎えに行く。


「親切なカップルが送ってくれるって」


事情を説明すると、怪訝な顔のカド。やたらと人を信用して疑わない私のことを咎めているようです。


「でもこのまま一晩ここで過ごすとか、ありえんから。レンタカーも予約してるんよ!」


と怒る私。救世主を見つけてきた私、感謝されるどころかなんで非難されんといかんのだ?


意外と小心者のカドくんの一面をみてしまった。


渋々カップルに逢うカドくん。でも彼らの黄色い車を見た途端、「サンキューサンキュー」ってお兄さんに握手。


ゴルァ!!! 私の怒りが頂点に達した音が聞こえたけれど、これからふたりで旅をするのだ。

ここで険悪になってはいけないと、私の中の天使が言った。


そしてこれから、天使になだめられながらのカドくんとの試練の旅が始まるのだった・・・。


今でもまだデビルキャットは運航してるのかなぁ?



行き当たりバッタリ・よつば旅


神、サイモン&ジェニファーと記念撮影。


か弱き子羊は辛さを微塵も感じさせない笑顔で写っております(笑)


苦痛を乗り越え、救世主と出逢えたからこそできる笑顔なのでしょうか(笑)