オーストラリアのホームステイ先は、小さな庭付きのあちらにしては小さめの家。
そこでは大きなホストマザーがひとりで暮らしていた。
彼女との生活は、小さな驚きを重ねる毎日。
ある日、ホストマザーが庭にある木を眺めながら呟いた。
「あの花ね、すごくかわいらしいでしょ。
毎年楽しみにしているんだけど、名前がわからないのよね」
視線の先には薄紅色の可憐な花が咲いていた。
あの花なら知っている。
うちの庭にも咲いていたから。
ハナミズキだ。
私は必殺・電子辞書を取り出した。
ハナミズキ…花水木…
綺麗な名前よね。
英語だとどんな名前が付いているのかな?
日本語を直訳すると
『Flower Water Tree』だけど。
その名を先に告げたおかげで、ホストマザーも一緒にワクワク!
打ち込んで、決定ボタンを押す。
出た。
「Oh…」
「What?」
「…『dogwood』」
「…What?!」
「『dogwood』だって」
「Oh…」
ホストマザー、明らかにがっかり。
気持ちはわかる。
私だって「Oh…」しか言えなかったもん。
花水木は『Flower Water Tree』なんかじゃなかった。
『dogwood』だった。
『犬』かぁ…
おかげさまで、決して忘れることのない名前になったけれど。