貧困なのは言葉か感性か | ことばの魔法 ことばのチカラ~ことば探検家ひろが見つけたコトバと人間

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ことばに宿る、不思議なチカラ。
人間の言語習得やコミュニケーション能力の奥深さはまだ解明されていないけれど、とんでもなくおもしろい。
気づいたら私のコトバ探検は本格化されていた。

この人たち、これ以外に感嘆を表す褒め言葉を持っていないのだろうか。

そう思ってしまうくらい、メキシコ人は連発した。
「Bonito!」

素敵な人ね!
いい車ね!
なんてかわいい!
彼ってかっこいいわね!

すべてに使われる言葉は『Bonito』。

他に表現方法はないのか?!とツッコミたくなるほど、彼らはBonitoしか言わなかった。
そんな話をしたらある友人がさらに追い打ちをかけたエピソードをくれた。

「手術を受けた人がね、手術跡を『Bonito』って言われたらしいよ」

おぉ…
傷口までもが『Bonito』!
スペイン語、恐るべし。



メキシコにて、ホストファミリーと共に夫のホームステイ先に遊びに行ったとき
以前我家にステイしたR君も会いに来てくれた。

メキシコと日本のハーフであるR君は、とてもお行儀がいい。
お母さんの躾がいいんだな…とは、日本にいた時から感じていた。

両手をそえて、お行儀よくお茶を飲む。
その振る舞いに私は顔が緩みっぱなし。
R君がかわいくて仕方ない。

「相変わらずお行儀いいね。日本人でもそんなに綺麗にお茶を飲む人は少ないよ」

そう伝えると、R君は何とも言えない顔をした。

「でも僕は男だから…かっこよくはないでしょ?」

そのセリフに、思わず笑ってしまった。
確かに。
男性だったらお茶は片手飲みする人も多いしね。
足も脇も開き気味で飲むよね。
膝を合わせて両手をそえてお茶を飲む日本人男性(しかも20代半ば)は少ないし、ちょっとなよっと見られるかもね。

すると日本語に興味津々の私のホストマザーから問いかけられる。

 「『かっこいい』ってどういう意味?」

あー…スペイン語で言うなら…『Bonito』?
でもそれだと正確に伝わるのだろうか?

R君を見ると、彼も困った顔をしている。
ハーフとはいえ、彼はメキシコ生まれのメキシコ育ち。
ハートも言葉もメキシコ人だ。
そんな彼がどう答えるのかと思えば、どうやら彼も私と同じように考えていた。

『かっこいい』はやはり『Bonito』なのだ。スペイン語で言うならば。
でもそれだと伝わらない。
感覚的にきちんと伝わる、『かっこいい』と対となるスペイン語は存在しない。

 「あー…難しいなぁ…」

そう言いながら、彼は一生懸命説明していた。

 「でもスペイン語にはないんだよ~!!」


その言語にない、ということは
その感覚がない、ということなのだろうか。

かっこいいも、かわいいも、素敵なも、素晴らしいも、いいも、
すべて『Bonito』なスペイン語。


 何か、貧困だな…


そんな失礼なことを思ってしまった。

貧困なのは語彙数なのか、はたまた感性なのだろうか…?