言いたいことは現在完了形 | ことばの魔法 ことばのチカラ~ことば探検家ひろが見つけたコトバと人間

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ことばに宿る、不思議なチカラ。
人間の言語習得やコミュニケーション能力の奥深さはまだ解明されていないけれど、とんでもなくおもしろい。
気づいたら私のコトバ探検は本格化されていた。

現在完了形ってムズカシイ。
…というイメージがある。

先日ある人が英語教育の過程について、とても興味深い話をされていた。

たとえば英語の 『go』。

中1で現在形の 『go』 を習い
中2のはじめに過去形 『went』 を学び
中2の終わりに受動態という形で過去分詞 『gone』 を学び
中3のはじめに 『have + 過去分詞』 の現在完了形を学ぶというのだ。

これは一見、順序だっていてわかりやすいように思える。
でも実際の会話のとき、その言語に慣れていないからって
現在形のみの会話ですべてが成立するかというと、そんなことはない。

そもそも現在完了とか過去完了とかいうものは
日本語にはない言い方だと言われている。

かといって、その感覚がないかというと、必ずしもそうではない。


 そこ、行ったことあるよ!

 もう食べちゃった!


どちらも英語の文法用語的に言えば現在完了形だ。


 その時点ではすでに帰ってきちゃってたの。


これは過去完了。

海外の人と話をするとき、何語であっても
原形ではなくこういう言い方をしたいと思うことはよくある。


 『行く』でも『行った』でもなく、『行ったことがある』

 『知る』でも『知った』でもなく、『知っている』

 『飲む』でも『飲んだ』でもなく、『飲んじゃった』


これを私たちはいちいち
 『行ったことがある』=過去に経験している状態
 『知っている』=過去に知り、今も継続して理解している状態
 『飲んじゃった』=すでにその行為を終えている状態(ただし直前)
なんて分類を考えて口にはしていない。

(どんな状態なのかを分析して、今この文にするのにも頭を使ったくらいだ。)

これを、日本語とは異なる感覚の言語で
その言語の原形から順番(?)に追っていく…
そして文法用語を交えて説明する…
そのことそのものに無理があるように思える。

そもそも文法用語ってムズカシイしね。
英語の『現在完了形』なんてまだかわいいものだ。

他の言語になると『接続法現在』だの『条件法過去』だの『直説法半過去』だの
もっとわけのわからない用語が登場する。

そしてネイティブは、そんな文法用語を何ひとつ知らずにコトバを操っているのだ。

話がちょっと逸れた。

赤ちゃんや子どもたちを見ていても、現在形しか話さない子はいない。

日本語の場合は、未来形や意志もすべて現在形と同じだから
一見全部現在形に聞こえるかもしれないけれど。

 『ブーブ(車)行っちゃった!』

これは現在形でも過去形でもなく、過去完了形なのだから。

そしてこれは、他の言語にも同様に当てはまる。

たとえばスペイン語、イタリア語、フランス語、ドイツ語などのように
主語によって動詞の活用が変わる言語。

これらの言語の動詞は、さらに時制によってもその形を変える。

原形を使っても通じないことはない。
ネイティブが相手であれば、ある程度は予測してくれるから。

でもやっぱり言いたいことは、原形で表せるものではないのだ。


 私、そこ行ったことあるよ!

 今度一緒に行こうよ!

 明日ご飯食べに行くんだって!


どれも本来は、原形で表現するものではないのだ。


言いたいことは原形や現在形だけでは言い表せない。
過去にした経験もその感想も、これからしようとしていることも。

文法的にムズカシイとされる形が
実は会話の中には当たり前に溢れている。

分解するから、ムズカシイ。

もっとナチュラルにいきたい。