『飲む』の落とし穴 | ことばの魔法 ことばのチカラ~ことば探検家ひろが見つけたコトバと人間

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ことばに宿る、不思議なチカラ。
人間の言語習得やコミュニケーション能力の奥深さはまだ解明されていないけれど、とんでもなくおもしろい。
気づいたら私のコトバ探検は本格化されていた。

新しいコトバを知ると、使ってみたくなる。

その状況がきたら言ってみて
「いえ~い♪」なんて思うことはもちろん。

ひとつのパターンが見えたらどんどん口にしてみたくなる。


ロシアのR君が来たときもそうだった。

「Do you like~?」のロシア語ver.を知った途端、
いろいろ言ってみたくて仕方がない私。


 『あなたは食べるのが好きですか?』

 『あなたは寝るのが好きですか?』


うーん…
日本語で書くと、なんて不自然(笑)


要は 『食べるの好き?』 『寝るの好き?』 ということだ。


自分の中にある、あらん限りのロシア語を使って
文章を作ってはR君に言ってみる。

苦笑しながら「うん、いい」とか「それはこう言う」なんて
教えてくれるR君。


 『あなたは飲むのが好きですか?』


そう言ったとき、R君が大きく反応した。


 「それはダメ!
  ロシアでそれを言うと、お酒を飲まなきゃいけなみたいに聞こえる」


基本的に静かなR君のすばやく大きな反応だったので
私はかなりびっくりした。


 そ…そうなんだ…


一瞬戸惑い、何でだろうと考えてみる。

この時、私はおもしろがって
知っている動詞を文章に当てはめていただけ。

だから『食べるの好き?』も『飲むの好き?』も
あまり深い意味を考えずに使っていた。

でも彼にとっては、日常に密接しているコトバ。
そこには必ず意味が伴う。

これがもし、日本語だったらどうか。


 『飲むの好き?』

 『飲める?』

 『飲む人?』


振り返ってみると、確かに日本語でも『飲む』という動詞は
“何を”と示さなければ、暗黙のうちに“お酒”をイメージする。

日本語の場合、『飲むの好き?』と聞いて
イコールそれが『飲め!』ということにはならないけれど
シチュエーションによってはそう受け取られる場合だってありえる。


考えてみれば、英語でも 『Do you drink?』 は危険ワード。

『酒を飲む』という意味を含む英語の『drink』、
ネイティブにはこう聞こえる。


 『あなた、アルコール依存症?』


言語によって、その意味合いがどのくらい強いかは異なるだろうけれど
何となく共通項が見えて、びっくりした以上に嬉しくなった。


さてロシア語に戻ろう。

 『あなたはお茶を飲むのが好きですか?』


これなら何の問題はないという。
ホッと一安心。



でも…
日本語だと言わないことに気づく。

『お茶飲むの好き?』 も 『コーヒー飲むの好き?』 も。

日本語だったら 『お茶好き?』 『コーヒー好き?』 だ。


 『お酒飲むの好き?』

 『お酒好き?』


…あれ?
どっちも言う。


おもしろい!