ダンナサマから禁止令! | ことばの魔法 ことばのチカラ~ことば探検家ひろが見つけたコトバと人間

ことばの魔法 ことばのチカラ~ことば探検家ひろが見つけたコトバと人間

ことばに宿る、不思議なチカラ。
人間の言語習得やコミュニケーション能力の奥深さはまだ解明されていないけれど、とんでもなくおもしろい。
気づいたら私のコトバ探検は本格化されていた。

小さな島国日本なんて言われていたのはいつの時代だったのだろう?

確かに日本は島国だから、
陸続きで異国へを足を踏み入れられる大陸とは感覚が異なるし
陸地単位で考えれば小さく見えるかもしれない。

とはいえ日本は結構広い。

それを痛切に感じるのは、自分が生まれ育った地を離れ
今までと違った環境に身を置いたときだ。



何年か前に、3家族でおうちパーティーをした。
我家がホストとなり、会費制での夕食会。

和気藹々おしゃべりしてお腹いっぱいご飯を食べて
そろそろお開きに…という頃。
九州出身のAちゃんが言った。


 「あ、お金やらないと!」


途端に慌てたのは、彼女の旦那様。


 「ごめん!この人今『やる』って言ったけど、悪気ないから!」


一瞬、空気が止まる。
その後、「ああ!」と彼女のご主人の焦りを理解した。

人にお金を渡すのなら、基本的に『やる』とは言わない。
言うならば『払う』とか『渡す』とか。

この状況で言うのなら
「お金払わなきゃ」なり、「お金渡さなきゃ」だ。

『やる』は感覚的に上から目線。
だからこそ、彼は焦ったわけだ。


 「いつもダメだって言ってるんだけど…」


ただその頃、すでに私たちはAちゃんと仲良くなっていたから
誰かに何かを渡すときに『やる』と表現するのは“彼女の言葉”
という認識があった。


だから特に嫌な感じもせず、問題なくフォローもできた。

 「大丈夫よ~。わかってるから」


ただ、確かにご主人の焦りは理解できる。

彼は埼玉出身。

これが初対面なり、あまり親しくない相手だったりしたら
相手とその状況によっては、失礼だと受け取られてしまうだろうから。

東京出身の私としては、彼のその感覚は理解に難くないのだ。

このあたり、地方によって言葉の常識が違うから
わかっていないと確かに難しい。

そんなことで人間関係に問題が生じる可能性があるのなら
気をつけておきたいという気持ちを持つことは不思議ではない。



その後何年も経って、つい最近。
その3家族の奥さん同士で再会する機会があった。

「そういえばあの時…」なんて、話に花が咲く。

するとAちゃんが言った。


 「今でも『やる』って言っちゃうと叱られるのよね。
  私もこれは直さなきゃな~と思っているんだけど…」


 そうなんだ!


私はもう、それは“Aちゃんの言葉”だと思ってしまっているから
彼女の口からその言葉が飛び出しても特に気にならない。

むしろ 「懐かしい~!Aちゃんの言葉だな~」
なんて思うくらいだ。

方言なら方言だしね。

ただ、やっぱりご主人の気持ちはわかるから
彼女が直そうと思っているのなら、それはそれ。

私が口出しすることでもない。

でもちょっと気になって尋ねてみた。


 「あれって九州の言葉じゃないの?」


それに対する彼女の答えが、なんとびっくり!


 「んー…わからない。私だけかも」


 ……へ?


それは…

それはまた、意外な答えだ。

真実はわからない。
今度機会があったら、九州出身の他の友達にも聞いてみようと思う。

でももし本当に、あれが方言ではなく彼女だけの言葉なのだったら…

そりゃあ彼女のご主人は「直しなさい!」と強く言いたくなるかもね。


さて、九州のみなさま。

いかが?