英語を母国語とする人たちはどうして
初めて目にする単語の読み方がわかるのか―――
私は長らく不思議に思っていた。
だってそうではないか。
英語は日本語のひらがなやカタカナと違って
一文字に一音当てはめられているわけではない。
日本語は『50音』という言葉があるように
約50の音から成っている。
初めて出会うコトバであったとしても
ルビがふってあれば音を間違うことはない。
イントネーションは微妙だけれど。
そして漢字を教えてもらえれば
初めての語彙であっても意味すらわかってしまうこともある。
これ、考えてみたらすごいことだ。
でも英語は…
たとえば『BIKE』 という単語。
これがどうして『ビケ【bike】』ではなく『バイク【baik】』と発音すると
誰しもがわかるのか。
すでに知っている音(コトバ)だったのならまだわかる。
「ああ、こうやって書くのか~!」で終わる話だから。
でも知らない単語だった場合。
どうしてわかるの?
中学から本格的に学校での英語教育が始まり
大学を卒業しても、その疑問は私の中から消えなかった。
そんな疑問を頭の片隅に引っ掛けたまま
10年ほど前、私はオーストラリアで過ごしていた。
ある日、初めて目にする長い単語が書いてある看板を見つけた私。
現地の友人になんと読むのかを訪ねた。
もちろん答えてくれた彼女。
でもその単語を目にするのは初めてだと言う。
え?
じゃあどうして読めるの??
「だってたとえば 『BIKE』 の場合
最初の母音は i だから【i 】じゃなくて【ai】になるし
最後の母音は e だから【ke】じゃなくて【k】になるでしょ。
だから【bike】じゃなくて【baik】になる。
そういうルール、小学校でみんな習うから
初めて見る単語でも読めて当たり前よ」
えーーーーーっ?!
そうなの??
そんなの初めて聞いた~!!
私の長年の疑問が、突然解けた。
驚きを伝えると、さらにそれを上回る驚きが返ってきた。
「えっ?!学校で教えないの? じゃあどうやって読むの??」
だからさ、読めないわけよ…
ネイティブでもない私たち日本人には
ただでさえもハードルの高い英語の読み、発音。
ネイティブですら学ぶその読み方を
非ネイティブの私たちが学ばないまま英語を叩き込まれる。
何だろう、これは…。
せめて英語教育の始まった中1のはじめにそれを習うだけでも
“読めないコンプレックス”はだいぶ減りそうなものなのに…
なんて思った。
帰国後何年かして、私は本屋でそれが
『フォニックスルール』と呼ばれているものだと知った。
それでも私は幸いなことに、発音記号が読める。
中学1年のときの英語の先生が読み方をしっかり教えてくださったおかげだ。
辞書を見ればある程度読み方が予測できる。
それがなければ英語の読みや発音への戸惑いが
もっともっと大きく自分にのしかかってきただろうことを思うと
本当にありがたい。
でもやっぱり…何だか…
せっかく頭のやわらかい時期に触れる、初めての他言語。
もうちょっと楽に触れ合えれば、
こんなに英語アレルギーの日本人を作らなくてすむはずなのに。
英語が話せることがスペシャルなことではなくなるはずなのに。
なんかもったいないな~…
いろいろ工夫されてきているとはいえ
まだまだ英語教育に疑問を持っている日本人は多い。
凝り固まった“常識”が、根底から覆るといいのかもしれない。