一時期、日本の最北端・稚内に住んでいたことがある。
生まれも育ちも東京の私にとって、ある意味あの地は
言葉も文化も違う異国よりもカルチャーショックを受けた場所だった。
街の雰囲気も、人の振舞いも、よそ者の扱い方も
価値観も、行動力も、向上心も。
風の強い稚内は、雪が降れば吹雪となる。
札幌からJRで5時間半。
猛吹雪の中、コートの襟を握りしめて南稚内駅に降り立つ。
私はさながら映画の中にいるように感じた。
戦後の日本。
人々が下を向き、地面ばかりを見ているあの光景。
稚内の人に言わせれば、新宿や池袋などの
そびえ建つビル郡こそが映画の世界。
同じ国内とはいえ日本は広い。
今にして思えば、育った環境の違いだな…と思えるけれど
渦中にいるときはショックとストレスでいっぱいいっぱいだった。
それでも何とかそこで生きようとする。
私は一時期、市内のプールに通っていた。
平日の昼間は、元気なオバサマ方がたくさん。
ひとつのコースで数人が、譲り合って泳ぐ。
ある日、プールの端で立ち止まり休んでいると
ひとりのオバサマが両手で二の腕をさすりながら大きな声で言い出した。
「あー、こわい! あー…こわい、こわい!」
突然怖がりだしたオバサマ。
え?!
この人、どうしたの??
ぎょっとしつつ、私の頭の中は「?」でいっぱいになった。
「あ~…こわいわね~。こわくないの?」
???
「こわくないの~?若いからいいわね~」
何だかさっぱりわからない。
ここはプールだし、何も怖いことなんてないと思うのだけれど…
そこでハタ、と思った。
まさか…
まさか、“また”、近くで殺人事件が??!
実は少し前に殺人事件があり、
そのプールの近くの海に凶器を捨てたということがあったのだ。
警察が捜索していたときも
たまたま私はプールに来ていた…という経緯があった。
…また?
いやいや…
だってそれならニュースになってるはずだし
こんな小さな町でそんなにしょっちゅう殺人事件なんてないでしょ!?
コワイ発想を必死に否定する私。
あ、もしかして仲間のオバサマ方と何か話していたのかな?
でもだとしたら、いきなり話を振られても 私わからないんだけどな~…
いろいろ いろいろ、逡巡する。
でもそれを若さと、一体何の関係が??
すると何故か突然、
あっ!!
もしかして!
閃いた!
『こわい = 疲れた』 か~~っ!!
何故閃いたのかはわからない。
でもその状況と、オバサマの表情としぐさで何かが繋がった。
その瞬間、体中から力が抜けた。
なんだぁ~…
一体何に恐れ慄いているんだろうと
真剣に考えていた自分がおかしかった。
『こわい』が『疲れた』だなんて、知らないよ~!
私にとって『こわい』は『怖い』でしかなかったんだもの。
でも、おかしな表情をして適切な反応を返さない私に
オバサマも焦れていたんだろうな~…^^;
ごめんね、オバサマ。
あれ以来、北海道人の『こわい』は私の中にインプットされた。
自分じゃ使わない(使えない)けどね☆
ちなみに今、私にとってのターニングポイントとなった土地として
稚内には愛と感謝を感じている。
大好きな友人と出会えた場所として。
自立して仕事をするきっかけとなった土地として
人生において大切なものに気づくために赴いた最果ての地として。
ありがとう!