メグビーメールマガジン 8月号
第1章 ~高タンパク食の軌跡~ 高タンパクはなぜ必要か
三大栄養素中もっとも生体・生命と直結
【タンパク食品が美味なわけ】
低タンパク食を続けると、低タンパク血症におちいる。血清タンパクが、正常値よりだいぶ低いのが、この病気の特徴である。
低タンパク血症では、必然的に血液が水っぽくなる。そんな水っぽい血液はこまるので、その水が血管から周囲の組織ににじみだす。その結果、組織が水ぶくれになる。すなわち、浮腫ができる。むくみがでる。
単純な低タンパク血症は、アミノ酸の静注でたやすく回復する。
要するに、血液中には、適当な濃度のアミノ酸とタンパク質とがなければならない。その原料は、食物によって体内にとりこまれる。それが小腸内でアミノ酸にまで分解されてから血中にはいる。血清タンパクは、食物にあったタンパク質と同じものではない。
タンパク食品は、肉にしても、魚にしても、美味である。これは、タンパク質が第一義的に人体に必要な物質であることからすれば、ありがたいことであるが、むしろ当然のことである。
アミノ酸の1つであるグルタミン酸が、化学調味料の王様であることは、われわれのよく知るところである。
市販の醤油の4分の1は“化学醤油”とよばれるものだ。これは脱脂大豆を塩酸で処理し、そのタンパク質をアミノ酸にまで分解したものを原料とする。グルタミン酸、グリシン、アラニンなどが、うまい味をかもしだすのである。
このような食品が口にはいった場合、消化の手続きをへることなく、そのアミノ酸は血中にとりこまれる。
【良質タンパクの諸条件】
栄養素としてタンパク質を見る場合、良質であるかどうかが問題になる。
良質糖質、良質脂質、などということばがないのに、「良質タンパク」ということばがあるのは、なぜだろうか。ある人は、動物タンパクより植物タンパクのほうがすぐれている、などといいだす。良質タンパクと植物タンパクとは、同義と考えてよいものだろうか。われわれはすでに、タンパク質というものの正体を知った。それは「ポリペプチド」とよばれる、アミノ酸をつぎつぎとつないだ鎖状分子にほかならない。その鎖状分子が、良質であったり、良質でなかったりとは、どういうことなのだろうか。
トウモロコシはかなりのタンパク質をふくんでいる。人間ではまさかそんな実験はできないが、ラットをトウモロコシだけで生活させると、まもなくそれは死んでしまう。この場合、ラットにとって、トウモロコシのタンパク質は良質ではなかったのである。ここで、問題はそのタンパク質を構成するアミノ酸にあった、と考えなければならない。
タンパク質をつくるアミノ酸は20種ある。すでに紹介したアミノ酸は、グリシン、ロイシン、アラニン、チロシン、グルタミン酸などであるが、トウモロコシのタンパク質の場合、リジンやトリプトファンが少ない。これがラットにとって致命的だった。この事情はわれわれ人間にもあてはまる。
ここにトランプがあったとしよう。ふつうのトランプは53枚ひと組だが、ここでのトランプは特別で、20枚ひと組である。このトランプには、グリシンとかロイシンとか、アミノ酸の名を書きこんでもよい。すると、トウモロコシの場合、リジンとトリプトファンの札がぬけている。ラットは完全なひと組がほしいのに、18枚のトランプでは何とも
ならない。それで死んだのだ。
人間だって、同じ運命にならざるをえない。われわれも、20枚そろったトランプがほしいのだ。けっきょく20枚そろったトランプ、つまり、20種アミノ酸のそろったタンパク質が、良質の名に値いする、という結論になるのだ。だが、問題はそれほど単純ではない。すべてのアミノ酸が等量に要求されるわけではないからだ。
われわれが主食とよぶ米や小麦粉では、トランプの札は20枚そろっている。しかし、やはりリジンがたりない。そこで、リジンの添加問題が1975年におきたことは、よく知られている。
アミノ酸のトランプは、20種が1枚ずつあればそれでよいのではなく、何は何枚、何は何枚と、それぞれに枚数がちがっているのだ。そこで重要なのは、枚数の比である。
人間の場合のトランプ構成の一例を示そう。トリプトファンを1枚とすれば、トレオニンが2枚、リジンが3枚、ロイシン、イソロイシンあわせて7枚の割合だ。この比でアミノ酸がほしいのであって、どれかが余っても、どれかが不足してもこまる。むろん、不足したアミノ酸がゼロでなければゲームはできないではない。ただし、不足した札を基準に
するから、使わない札がでてくる。
トウモロコシについてアミノ酸組成を見ると、トリプトファンを1枚とすれば、トレオニンが29枚、リジンは0、ロイシン、イソロイシンあわせて171枚だ。人間としてこれではこまる。
卵白を調べてみると、トリプトファンを1枚とすれば、トレオニンが2.5枚、リジンが3枚、ロイシン、イソロイシンあわせて9枚だ。これは、人間の要求にほぼぴったりする手の内ではないか。
卵白を良質タンパクとし、トウモロコシを非良質タンパクとする根拠は、ここにあったのだ。
【白米のタンパク点数】
このような問題についての実験を、初めて試みたのはアメリカのトーマスで、1909年のことである。
彼は実験台になった人を3群に分け、タンパク源として、第1群にはジャガイモ、第2群には小麦、第3群には牛乳を与えた。そして、それらのタンパク質の何%が人体で利用されたかを測定するために、与えた総タンパク量と、尿中に排出された総窒素量を比較した。このとき彼は、タンパク質がエネルギー源にならないように、十分な糖質を補給した。 結論はこうである。
人間の要求するタンパク質の最低量を供給するために与えなければならない量が、それら3種類のタンパク源で、大きな開きがあったのだ。そこで彼は、あるタンパク質の一定量が、動物のタンパク質に対する要求の何%を満たすか、という数字を問題にせざるをえなくなった。
この数字を、トーマスは「プロテインスコーア」と呼んだ。これは、タンパク価あるいはタンパク質の生物価、と訳されているが、「タンパク利用率」、「タンパク点数」とでもいったような名称のほうが、ぴんとくるような気がする。
プロテインスコーアを実際に算出するときには、この数値を低くおさえているアミノ酸に着目する。そして、それのパーセンテージを、そのアミノ酸の理想含有量を示すパーセンテージで割って、100倍すればよい。このようなアミノ酸を「第1制限アミノ酸」という。
第1制限アミノ酸は、トウモロコシについても、米や小麦についてもリジンである。
白米のプロテインスコーアを算出するためには、100グラム中の窒素量をまず調べる。するとそれは1.04グラムとなる。次に、この窒素1グラムあたりのリジンの量を見ると、それは200ミリグラムである。そしてそれを、リジンの理想含有量270ミリグラムで割ればよい。この値は国連の食糧農業委員会(FAO)で定めた基準である。200
を270で割って100倍すると、74になる。それが白米のプロテインスコーアになる。
【大切なのは“配合”だ】
白米は1つの例であって、玄米もこれと大差ないが、プロテインスコーアにおいて、植物性食品は動物性食品に劣る。プロテインスコーア100のものは卵とシジミであるが、ともに動物性食品である、卵を毎日とる習慣のない人は、このさい一考を要するだろう。
シイタケはトリプトファンが皆無に近いので、そのタンパク質だけでは利用率が極端に低い。こんな食品のプロテインスコーアは問題にならない。プロテインスコーアがゼロのタンパク質に依存したら、生命の炎は消えざるをえないのである。
そうかといって、プロテインスコーアの低いタンパク質が無価値かというと、そう考えてはまちがいだ。トウモロコシの場合ならば、リジンを加えればプロテインスコーアは上昇する。ということは、リジンをよけいにふくむ、牛乳や肉などといっしょに食えば、トウモロコシのタンパク質も十分に利用できる、ということだ。
米食にせよパン食にせよ、リジンの余剰をもっている副食物といっしょになれば、そのタンパク質の利用率は上昇するのである。
牛乳のプロテインスコーアは74である。これは、硫黄をふくむ含流アミノ酸が不足のためであって、これを十分に添加すれば、プロテインスコーアは100を越す。このとき、これを切り捨てて100とする。いくつかのタンパク質を適当な比でまぜることによって、プロテインスコーアのきわめて高い食品をつくることができる。私が“配合タンパク”と呼んだのは、そのような混合物である。ただし、配合タンパクなどということばは、辞書にもない。私の造語だからだ。
じつは、このような配合は、自然にもおこなわれている。
牛乳のタンパク質は、カゼイン、アルブミン、グロブリンの3種の混合物であって、それぞれのプロテインスコーアはけっして高くない。カゼインは硫黄をふくむ含流アミノ酸が不足し、これをアルブミン、グロブリンが救う形となって、牛乳を良質タンパクのなかまに入れているのである。
【三石巌 高タンパク健康法(絶版)P56~66より抜粋】
元記事はこちら