今月のメグビーメールマガジン
第1章 ~高タンパク食の軌跡~
― 意外におおい低タンパク食による病気 (2)
【3週間で骨折が快癒】
折り紙つきの難病に、ベーチェット病がある。これは反覆性の口内炎、外陰部潰瘍、皮膚の結節などを発し、失明にいたる病気であって、原因は不明であり、効果的治療法がない。
ところが九州の一流大学病院にいたベーチェット病患者が、高タンパク食とビタミンE大量服用を試みて、いちじるしい改善を見ることができ、主治医を驚かせた例がある。
いわゆる難病のうちには、タンパク質の強化が救いになるケースが、確実にあるのだ。
知人H氏は50歳代の屈強な男性である。この人は細君を失っていたため、誕生日にひとりで祝い酒をやった。そこまでは結構な話だが、家に帰るためには電車に乗らねばならぬ。
その電車から無事におりて駅のブリッジを渡り、千鳥足で駅の階段にさしかかったとき、事故がおきた。足をふみはずして、頭を下に転落してしまったのだ。
当然の結果として、打撲と骨折とで救急車にはこばれ、入院のしまつとなった。骨折部位は、足と肋骨とである。救急病院からのしらせで、娘さんがかけつけた。このとき彼女は、配合タンパクをもっていった。そしてこれを大量にとらせたのである。
H氏の経過はきわめて順調で、医師をびっくりさせた。若者でも35日かかるはずの骨折の治癒が、たった3週間で完了した。
この種の好成績が医療技術のわく内では期待できないことを、われわれはよく知っておかなければならない。患者側は主治医に協力を要請すべきであり、医師側は患者に協力すべきである。
虚心に話しあえば、食事療法などたやすいはずだ。
私はここまでに、“配合タンパク”ということばを何回となく繰り返してきた。それはその名のとおり、いろいろなタンパク質を配合して良質にしたものである。
宣伝めいたことばはやめろ、というような要請があるかもしれないが、私としては、これを、毎食のふくむタンパク質の比率を高めるための手っ取り早い方便として紹介しただけのことである。
配合タンパク40gをとるかわりに、鶏卵5個としてもよかったのだ。卵といえばコレステロール、というような迷信的な忌避をする人がいてややこしいから、配合タンパクという、無難なものをだしてきただけのことである。
改めて断わっておくが、この文の“配合タンパク”とあるところを“卵”として、いっこうにさしつかえない。
【ハワイ日系米人の調査例】
ところで、日本人の食生活では、とかくタンパク質が不足する。それが、老視や半身不随や全身性エリテマトーデスにつながるか、つながらないか、などの議論はさておいて、ハワイの日系米人についての調査を紹介しよう。それをやったのは、ハワイ大学のヒルカー教授である。
ハワイには、日系米人が多い。彼らは白人と比べて血圧が高い。そこでヒルカーは、この原因が食習慣にあると見て、動物実験を試みた。ラットを二組に分け、A組には和食を、B組には洋食を与えた。そしてその血圧をはかってみると、A組の平均は188、B組の平均は124とでた。
これで和食が高血圧食であることはわかったのだが、ヒルカーはこれの原因を食塩と考えた。
そこでA組に与える和食の塩分を極端にへらし、B組に与える洋食の塩分を極端にふやしてみた。すると、A組の血圧が134までさがったのは期待どおりとして、B組の血圧は変わらなかった。
ヒルカーは、日系米人の高血圧が、和食に多い食塩だけが原因ではなく、タンパク質とビタミンB2との不足にも原因がある、との結論に達した。
これらの不足は腎機能の低下をもたらし、濾過作用をにぶらせる。それをカバーするために血圧があがる、というのが、この種の現象の論理である。ヒルカーの実験は、タンパク質の追加摂取が、高血圧対策たりうることを教えてくれたことになる。
とにかくここに紹介した資料から、タンパク質が健康管理上の重要な鍵の一つとなっていることがわかるだろう。
ここでの問題は、注意しているはずの日常の食事のなかで、知らないうちにタンパク質不足がおこって、さまざまな障害をおこしている点にある。知らず知らずのうちに、病気の種をまくような食習慣が実際にあるということだ。こういうところまで、“無知”の範囲をひろげることが、おそらく本書に課せられた使命ということになるだろう。
ところで、“高タンパク食”などということばは、ふつうの家庭用語にはない。それは病院用語であって、肝臓病患者のために特別につくられた食事をさすことばである。社会通念では、肝臓だけがタンパク質を要求するような話になっているということだ。
【知恵おくれや発育不全になる】
日常の食事が、高タンパクか低タンパクか、などという問題は、野生の動物にはありようがないのに、人間や家畜や実験動物にはある。このような事情は、食物のわくが人為的にはめられていることからくる。しかしそのわくは、動かせることもあり、動かせないこともある。そこには経済の問題かもからんでいるから、事はややこしい。
いわゆる低タンパク食は、腎臓病患者に対して、よく医師が指示する。
ただしこのときは、低カロリーという条件がつく。食事の量を全面的にカットして、腎臓の負担を軽くしようというわけだ。
低タンパク食などという名はつかないが、客観的条件からこのような食事におちいるケースはまれではない。世界中に、タンパク過剰の食事をする人はひとりもいない、と極言する栄養学物者がいるけれど、彼の目から見れば、すべての人が低タンパク食に甘んじていることになる。
1933年にウィリアムズは、アフリカのガーナで悲惨な乳児を見た。母親の妊娠がひんぱんなために、彼らは授乳期をむりに中断されて離乳食に移行させられる。
これが低タンパク食であることから、さまざまな障害がおこる。これを「クワシオルコール」という。この離乳食は、カロリーは十分であるが、タンパク質が不足しているだけのことだ。
クワシオルコールの特徴は、こうである。まず、発育がよくない。髪の毛が灰色や白で、ほかの子と色がちがう。むくみがある。肝臓が脂肪をためたり硬化したりする。湿疹ができやすい。胃腸が悪い。いらいらしている。無感動である。筋肉の発育が悪く、運動神経がにぶい。敏活な動作ができない。クワシオルコールの患者の毛髪は、細くて抜けやすい。タンパク質不足のとくにひどい時期にのびた部分は白くなる。色のある部分とない部分とが、だんだらになる。クワシオルコールによる入院患者の死亡率は50%にものぼるという。
クワシオルコールにおちいる低タンパク食をラットに与えてみると、その子の発育がおそいばかりでなく、迷路実験の結果は、知能の劣化を示す。
幼児が、ここにあげた病状の片鱗をあらわしたとしたら、タンパク質の不足を疑ってみるのが賢明であろう。
むろんこれは医師の発想ではない。いわゆる予防医学的な発想であって、今日ではまったくわれわれ素人の領域に属する。クワシオルコールの多発する地域の成人には、肝硬変の患者が異常に多いという。
クワシオルコールは、アフリカばかりでなく、南米諸国、インド、インドネシア、フィリピン、ハンガリー、イタリアなどにも見られる。タピオカ、ヤマノイモ、サツマイモを常食とする地方に多く、米、麦を常食とする地方に少ないことから、糖質の摂取量や質にも関係がありはしないか、との説もある。クワシオルコールは、低タンパク食、とくに低乳タンパク食をおもな病因とするが、これに低カロリー食の性格が加わるケースがある。この場合、飢餓状態があるわけだが、タンパク質の比率がかならずしも低くはない関係上、障害は比較的軽い。たとえば、習慣性の下痢も、クワシオルコール患者ほどひどくはない。それにしても、
皮下脂肪の減少や組織の萎縮、カリウムの喪失をおこし、ついには脱水症状を呈するにいたる。
低タンパク食に低カロリー食を加えた場合にあらわれる症状を「消耗症」という。クワシオルコールの幼児は丸みのある顔をしているが、消耗症の子は、皮下脂肪も筋肉も少ないので、顔が小さくしなびている。
体重はいちじるしく軽いが、髪の毛の色は正常だ。
クワシオルコールと消耗症とを比較してみると、低タンパク食の欠点が、摂取した栄養素のうちで、タンパク質の比率の低いときにあらわれることが、よくわかるだろう。
【三石巌 高タンパク健康法(絶版)P25~32より抜粋】
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