基礎から学ぶビタミンEー16.リゾゾームとビタミンE1
三石巌:全業績7、ビタミンEのすべて、より
細胞内小器官リゾゾーム
リゾゾームは、細胞内小器官の一つである。英語流にライソゾームと呼ぶ人もいる。「リゾ」は溶かすの意、「ゾーム」は物の意のギリシャ語である。
その名のごとくリゾゾームの面目は溶かすことにある。それは、細胞内の異物を全て溶かし去ることを任務とする顆粒である。そのためにここには、30種をこえる分解酵素がふくまれている。といっても、すべてのリゾゾームが、これらを残さず用意しているわけではない。リゾゾーム酵素は、タンパク質をアミノ酸に、多糖体を単糖に、核酸を核酸素子とリン酸とに、脂質を脂肪酸とアルコールとに分解する。いわばそれは、細胞内におかれた消化器官である。むろん、分解された物質は、リゾゾーム膜をとおして細胞質内に放出されて再利用されるのが正常の場合である。
リゾゾーム酵素は、ほかの一般の酵素と違う特徴をもっている。それは、普通の酵素がアルカリ環境のなかで働くのに対し、リゾゾーム酵素が酸性環境で働くことである。リゾゾーム内部のペーハー(pH)は、4~5なのだ。体液のpHは、7.4前後で、微アルカリ性であるが、pH4~5ということは、微酸性どころか、掛け値なしの酸性である。この事実は、もしリゾゾーム酵素が外界に出ても、ほとんど働けないことを意味する。
じつは、リゾゾーム膜は、ほかの生体膜とちがって、二重層になっておらず、一重層をなしている。そのために、非常に破れやすい。ということは、リゾゾーム酵素の逸出が容易にありうるということだ。しかし、細胞内のpHは、若干の例外を除けば、原則として微アルカリ性である。したがって、リゾゾーム酵素は、細胞質に対しては、分解作業を許されないということになる。
リゾゾームの役割
リゾゾームの役割は、細胞内外の異物や不用物質を低分子まで分解する清掃係といってよい。異物や不用物質が細胞膜に接すると、その部分の細胞膜は、それを包みこむようにくぼみ、さらにくびれて、ついに細胞膜からちぎれて、細胞質内に泳ぎ出す。そしてリゾゾームにめぐりあって、両者は融合する。そこで、液胞の内容物はリゾゾーム酵素の働きをうけて、低分子物質まで分解するのである。
一方、細胞質内に散在する異物や不用物質は、自動的にリゾゾームにろちこまれ、そこで単純な物質まで分解する。リゾゾーム内での処理を終えた低分子物質は、リゾゾーム膜をとおして細胞質内に放出され、細胞のために利用される。
デ・デューブのことばを借りれば、リゾゾームは、われわれの消化器と同じように、便秘をしたり、下痢をしたり、あるいは嘔吐をもよおしたりする。それは細胞の病気であり、ひいては全身の病気につながるという。リゾゾーム酵素の問題もあり、異物の性質の問題もあるが、先決問題は生体膜にある。リゾゾーム膜が酸化をおこすようなことがあっては、細胞の清掃作用は頓挫せざるをえない。そこに、ビタミンEの役割をみることになる。
リゾゾーム膜が破れても、細胞環境がアルカリ性であれば、事故はおきない。それがもし酸性になると、リゾゾーム酵素は猛威をふるう。その例は、「湿疹」である。ストレスがあれば、体液は酸性化する。そのときリゾゾーム膜が破れれば、細胞は膜をふくめて、「自己消化」をおこす。それが皮膚におきれば湿疹ということだ。
そこで、湿疹ができるためには、二重の条件がかさなることが必要だとわかる。皮膚の酸性化とリゾゾーム膜の破壊との二つがなかったら、湿疹はおきないのだ。
ビタミンE1には膜の保護作用があり、アスピリンや副腎皮質ホルモンには強化作用があるといわれる。さらにまた、副腎皮質ホルモンの強化作用は過剰だともいわれる。湿疹の薬として売られているものは、おおむねステロイド剤であるが、これは皮膚科医にとって切り札となっている。アスピリンの水溶液も有効だが、ビタミンE1の塗布もよい。ただそのとき、ビタミンE1の品質が、驚くほど厳正に問われることになる。
皮膚の細胞におきるような事故は、ほかの部分の細胞にも見られる。例えば、関節部の骨細胞に、リゾゾーム膜の破壊と、内部環境の酸性化があれば、前述の理由によって、骨細胞の自己消化がありうる。関節の骨や滑液のリゾゾーム酵素による分解物は、関節内に、いわゆる「水」のかたちでたまる。
皮膚の場合でも関節の場合でも、ここにのべた事故は、リゾゾーム膜の破壊からくる。それが、関節の変形の条件の一つになるだろう。関節炎に対し、ビタミンE1の塗布が効果をあげた例がいくらでもあるが、その現象の説明は、リゾゾームを介して行われるべきであろう。
リゾゾームのもつ問題の中には、「リゾゾーム蓄積症」がある。リゾゾームにとりこまれた物質が分解されずに蓄積する現象がこれである。この状態になると、リゾゾームは次第に肥大して、核をはじめとする細胞内小器官を圧迫し、細胞の機能を損なうことにもなる。
リゾゾーム蓄積症は、分解不可能な物質が存在し、あるいは生成する場合と、リゾゾーム酵素に欠落がある場合と、原因が二つある。分解不可能な物質の生成では、「リポフスチン」が代表的なものとされている。この物質の生成はビタミンE1によって抑制される。
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生体膜の酸化があれば、細胞内環境も酸素不足、ビタミン不足となり嫌気性解糖主導となり、酸性になる。
リゾゾーム膜が破れれば、細胞は膜をふくめて、「自己消化」をおこす。
それが皮膚におきれば湿疹。
副腎皮質ホルモン(ステロイド)によるリゾゾーム膜の過剰な強化作用。
ステロイドによる「リゾゾーム蓄積症」。
これが、ステロイド長期投与による副作用だろう。
ステロイド離脱の際は、E1に置き換えるのが良いはず。
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presented by Yamazaki さん