「引き継ぐべきもの」「捨て去るべきもの」「創り出すべきもの」

人の寿命を超えて永続する企業の営みを考える上で大切なテーマである。

企業は、経営環境に適応することによってのみ存在できる「環境適応体」である。

1998年、エルニーニョの影響で沖縄の海水温が2度上昇した。このたった2度の水温上昇という環境変化に適応できず、多くの珊瑚が死滅してしまった。再生するまでに50年という歳月を要するという。これほど生き物の生命は環境に大きく左右されている。

市場、競合、人々のライフスタイル、社会環境、規制緩和、国際化、技術革新・・・・・・と、経営を取り巻く環境も刻々と変化している。事業の長期的な繁栄や業績の向上を望むなら、こうした経営環境の変化に適応すべく、先手を打って「自らを変える」必要がある。

「変える」ということは、新しい経営環境に不適合な古いものごとを捨て去ることであり、同時に新しい経営環境に適応するための新しいものごとを身につけることである。慣れ親しんだ考え方ややり方を廃棄し、新しい考え方ややり方を創造し、受け入れることができなければ、恐竜のように滅びるのを待つことになる。

この「変化」に取り組むには「軸」が必要である。天と地がひっくり返るような変化が起これば軌道修正も必要かもしれないが、少々の環境変化に遭遇しても、変えることのない不変のものが「軸」として必要だ。この「軸」、すなわち「経営理念」に表現される企業の目的、使命、存在性、価値、行動原理といった企業の本質が、組織の風土や思考・行動様式にしっかりと根付いているからこそ、迷うことなく変化に対応して進むことができるのであって、しっかりとした軸がないと、変化に翻弄されてしまう。

3M(スリーエム)、IBM(アイ・ビー・エム)、GE(ジー・イー)、ウォルマート、ディズニー・・・・・・と、時代を超えて際立った存在でありつづける米国企業の共通原理を解き明かした『ビジョナリー・カンパニー』の著者ジェリー・I・ポラス氏(スタンフォード大学教授)は、日経ビジネス(1998.1.5号)の特集「21世紀に輝く会社」で、100年繁栄するための条件として、次のように述べている。

『ビジョナリー・カンパニーは、「変わらない理念」と「変化への対応」、つまり「不変」と「変化」という一見、対立する要素を持ち合わせていることが必要だ。企業を船にたとえればわかりやすい。変わらぬ理念は航海の指針となる星、変化への対応力は強風や荒波に対応できる操縦術だ。その時々の風や波に上手く対応できても、常に星を見て針路を定めていないと船はジグザグに進み迷ってしまう』と。

もう17年も前に書かれた記事だが色あせることはない。私は、自らの「不変」と「変化」について考えるとき、また私たち人間の生き方や企業経営のあり方について考えるとき、古来より伝わる文献『水五則』の教えを大切にしている。何度となく自問自答しているので、もう暗記してしまっているくらいであるが、奥が深く、この教えとは一生のお付き合いになるだろうと感じている。是非、皆さんにもご紹介しておきたい。

一、みずから活動して、他を動かしむるは、水なり。

二、常におのれの進路を求めてやまざるは、水なり。

三、障害にあって、激しくその勢力を百倍し得るは、水なり。

四、みずから潔うして他の汚濁を洗い、清濁あわせいるる量あるは、水なり。

五、洋々として大海をみたし、発しては霧となり、雨雪と変じ霰と化す。

凍っては玲瓏たる鏡となり、しかも、その性を失わざるは、水なり。