[格助]名詞、名詞に準じる語に付く。
 動作・作用の目標・対象を表す。

「家を建てる」「寒いのをがまんする」「水を飲みたい」
「ただ月―見てぞ、西東をば知りける」〈土佐


 移動の意を表す動詞に応じて、動作の出発点・分離点を示す。…から。

「東京を離れる」「席を立つ」
「さびしさに宿―立ち出でてながむればいづくも同じ秋の夕暮」〈後拾遺・秋上〉
 

 移動の意を表す動詞に応じて、動作の経由する場所を示す。…を通って。

「山道を行く」「廊下を走る」「山を越す」
「また住吉のわたり―こぎゆく」〈土佐
 

 動作・作用の持続する時間を示す。

「長い年月を過ごす」「日々を送る」
「足引の山鳥の尾のしだり尾のながながし夜―独りかも寝む」〈拾遺・恋三〉
 

 (「()をにほふ」「()()」「()を泣く」などの形で)同類の意をもつ名詞と動詞の間に置かれ、慣用句を作る。
「夜はも夜のことごと昼はも日のことごと()のみ―泣きつつありてや」〈・一五五〉
 

 遭遇や別離の対象を表す。…に。
逢坂(あふさか)にて人―別れける時に詠める」〈古今・離別・詞書〉
 

[補説]1の「水を飲みたい」などは、「を」の代わりに「が」を用いることもある。格助詞「を」は、間投助詞から生じたといわれる。


[接助]活用語の連体形、まれに名詞に付く。
 逆接の確定条件を表す。…けれども。…のに。
「亡き人の来る夜とて(たま)まつるわざは、このごろ都にはなき―、(あづま)の方には、なほする事にてありしこそあはれなりしか」〈徒然・一九〉


 原因・理由を表す。…ので。…(だ)から。
「ししこらかしつる時は、うたて侍る―、とくこそ試みさせ給はめ」〈・若紫〉
 

[間助]名詞、動詞型活用語の連体形・命令形、形容詞・形容動詞型活用語の連用形、助詞などに付く。
 (文中・文末で)感動・詠嘆・強調を表す。…(だ)なあ。…ね。…よ。
我妹子(わぎもこ)(くしろ)にあらなむ左手の我が奥の手に巻きて()なまし―」〈・一七六六〉
「萩が花散るらむ小野の露霜にぬれて―ゆかむ小夜(さよ)()くとも」〈古今・秋上〉


 (文中で名詞に付き、下に形容詞語幹に接尾語「み」の付いたものを伴って)理由・原因を表す句の中で、上の名詞を特に取り立てて強調する意を表す。…が…ので。…の…さに。
「若の浦に潮満ち来れば(かた)―なみ葦辺(あしへ)をさして(たづ)鳴き渡る」〈・九一九〉


[補説]主に上代の用法で、中古でもみられるが、鎌倉時代以後は和歌以外にはほとんどみられなくなる。この用法が格助詞・接続助詞に発達したという。なお、1の文末用法を終助詞、2を格助詞とする説もある。

 

を[五十音]

 五十音図ワ行の第5の仮名。現在は、五十音図ア行第5の仮名「お」と発音上の区別がなく、現代仮名遣いでは、助詞「を」以外には、この仮名を用いない。しかし、歴史的仮名遣いでは「お」と区別している。


 平仮名「を」は「遠」の草体から。片仮名「ヲ」は「乎」の初3画から変形したもの。
[補説]「を」は、古くは[wo]の音で、「お」(発音[o])と発音上も区別があったが、のち、両者は同じ音となり、中世末期には[wo]、近世以降は[o]となった。