読書感想文/鈴木光司『ユビキタス』説得力抜群のサイエンス系ホラー | たろの超趣味的雑文日記〜本と映画と音楽とBABYMETALその他諸々

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鈴木光司の『ユビキタス』(KADOKAWA,2025年3月)を読了。

 


リング』(1991年),『らせん』(1995年),『ループ』(1998年),そして『バースデイ』(1999年)でジャパニーズ・ホラー界の帝王に君臨する作者による,なんと16年ぶりの完全新作である。


内容(本書の帯より)

原因不明の連続突然死事件を調べる探偵の前沢恵子は、かつて新興宗教団体内で起きた出来事との奇妙な共通点を発見する。恵子と異端の物理学者・露木眞也は「ヴォイニッチ・マニュスクリプト」と事件との関連性に気づく。だがそのとき、東京やその近郊では多くの住民の命が奪われはじめていた――。


中盤までは比較的静かなサスペンス調だが,後半は怒涛の展開で突き進むスーパー・ナチュラルなホラー路線である。「地球に生息する生命全重量の99%以上を占める植物」が,まるで意思を持っているかのように(しかも地球の支配者であるかのように)“振る舞う”というのは,もはや事実なのではないかと思いたくなるほどの迫力と説得力に満ちている。


ちなみにGeminiに訊いてみたところ,私たちの現実世界においては,地球上の全生物のバイオマス(生物量)のうち植物が占める割合は80%以上とされているらしいので,本書の記述は限りなくリアルに近いさすがに終盤でとある重要人物が植物に絡めとられて池に引きずり込まれ,ほどなくして“髑髏(されこうべ)”に朽ち果ててしまうシーンはフィクション以外の何ものでもないが,それですら「あり得るのではないか」と思わせるほどに植物の存在感は圧倒的だ(なお,このシークエンスは本書で最も怖かった)。

 

▼美醜が同居する表紙も秀逸。

 

全体的に説明的文章が多く,またサイエンス色が強いので,そういった方面が苦手な人は途中で挫折するかもしれない。生物学を中心とする科学の新書を読んでいるような気分になる瞬間が確かにある。ただし,それが問題にならなければ,のめり込むこと間違いなしの面白さである。フィクションとノンフィクションの境界が良い意味で曖昧なので,理論武装したリアリティあふれるサイエンス系ホラーだと言えよう。


それにしても,繰り返しになるが本当に怖い。人間という存在がいかにちっぽけであるかということは,しばしば宇宙との絡みの中で言及されることが多いが,それがまさか植物との関わりで痛感させられるとは。植物に対する考え方がガラリと変わった思いがする。