辻村深月の『凍りのくじら』(講談社文庫、2008年)を読了。今年になってハマって読み始めた辻村作品8作目。
これで8作目になるわけだが、これまでに私が読んできた7作品とはかなり毛色が異なると感じた。年のわりに妙に達観していて良くも悪くも大人びた主人公・理帆子とその母親との微妙な距離感の描き方や、爽やかさと未来への希望を感じさせるラストはいかにも辻村作品らしいが、理帆子と明らかに異常なその元彼との危うい関係性が醸し出す異様な緊張感と不穏な空気は、他の7つの作品には見られなかった類のものだ。
とりわけ理帆子の元彼が徐々に正気を失っていき、やがて恐ろしいストーカーへと変貌を遂げていく様には、さながらスティーヴン・キングの恐怖小説を読んでいるかのような寒々とした怖さを感じる。若気の至りで他人を完全に舐めきっている理帆子の傲慢さと幼稚さに,読み手はハラハラさせられっぱなしだ。
理帆子が愛する父親は失踪した跡,どうなってしまったのか。基本的には他人を信頼しない理帆子から珍しいことにかなりの信頼を勝ち得たと思しき先輩は,いったい何者なのか。その彼と親しい“口がきけない”少年の素性は?――様々な謎をはらみつつ,物語はテンポよく進んでいく。
これを言ってしまうとネタバレになる可能性が高いが,この作品はまさかの映画『シックス・センス』ばりのファンタジー系ミステリーだったというのが私の感想だ。あまりにも強烈な物語なので,その前後に配置されたプロローグとエピローグの読後感が心地よい。作者の『ドラえもん』好きが炸裂して,秘密道具にまつわるエピソードが随所で効果的なガジェットとして用いられている点も,『ドラえもん』好きにはたまらない。