辻村深月の『ツナグ』(新潮文庫,2012年)を読了。読み終えた辻村作品はこれで6作目。
死んでしまった人に一生に一度だけ再会できるとしたら,誰に会い,何を伝えるのか――。そのような奇跡を可能にする「使者(ツナグ)」との出会いを通じて死者との再会を果たした4人の感動の物語。それぞれの物語が独立した短編のような作りになっているのが特徴だ。
辻村深月は人の人生を物語ることが実に上手いなあと感じた。「死んだ人と,一度だけ会える」という仕掛けはただでさえ人の心を揺さぶる可能性に満ちているが,巧みな心理描写に裏打ちされた深みのある人物造形と,その人物が体験することになる「他人にとっては何気ない日常だが,その人にとっては特別な意味を持つ出来事」が,物語により一層のドラマ性を与えていると思う。
生者と死者を仲介する「使者(ツナグ)」の素性や,多くの人を仲介する過程で使者が何を思っていたのかということが明かされる最終章が実に興味深い。そこに至るまでの4人の物語が,いわば壮大な伏線のようになっている構成も見事。