スティーヴン・キングの『ファインダーズ・キーパーズ (上・下)』を読了(文春文庫,2020年)。
『ミスター・メルセデス』に続く“キングのミステリー”第2弾。ある作家の熱烈なファンであるモリーが,その作家の看板シリーズの終わり方に納得がいかず,引退生活を送っている作家の元を訪れて……というのが物語の始まりだ。キングの『ミザリー』に似ていなくもないが,本作ではファンが作家本人よりもむしろ作品の方に心酔している点が異なる。
未発表原稿をめぐってモリーがやらかしたある事件(強盗殺人)が数十年の時をかけて複数の人物を吸い寄せていく。この展開は壮大なスケールを感じさせるが,物語のテンポはけっして良いとは言えない(特に上巻)。
シリーズ前作『ミスター・メルセデス』の主人公・元刑事ホッジズは上巻の最後の最後にならないと顔を出さない。ホッジズを中心とする3人のチームは本作においては脇役的な役回りだ。主役は,未発表原稿を偶然発見してしまった,家族思いの少年ピート。原稿をめぐって繰り広げられる,祖父と孫ほどに歳が離れたモリーとピートの行き詰まる攻防(心理戦含む)は非常にスリリング。これはピートの壮絶な戦いの物語なのだ。
下巻になるとストーリーのテンポがグッと上がる。特に後半,ピートと強盗殺人犯モリーが相まみえて直接対決するシーンの緊張感と迫力は強烈。このシーンといい,モリーがかつての知人を惨殺するシーンといい,情け容赦ない暴力描写は読んでいて思わず目を背けたくなるレベル。それでもページをめくる手が止まらなくなってしまうのは,キングのストーリーテリングの巧みさ故のことだろう。
ラストにはキングらしいと言えばキングらしいホラーっぽいシーンもあり,それがシリーズ最終章となる次作でどのように生かされるのかがとても気になるところ。
はっきり言ってこれはもはやミステリーではないと思う(刑事や元刑事が出てくればミステリーというわけではない)。強いて言うならジャンルは“スティーブン・キング”か。いずれにしても,ミステリーだろうがホラーだろうが,そのようなカテゴライズなどどうでもよくなる読み応えある作品だ。