フェルディナント・フォン・シーラッハの『コリーニ事件』(創元推理文庫,2017年)を読了。
シーラッハ初の長編小説は,衝撃的な展開が魅力の法廷サスペンスだ。
簡潔で短い文体でテンポよく進む独特の筆致はさすが。ドライで淡々としていながら,人間という存在の奥深さを感じさせる。
衝撃的な展開ではあるが,うがった見方をすれば「実はこうでした」という後付けの理由にすぎない。でも見せ方が上手いので,著者の掌の上でいいように踊らされてしまう。
本書がすごいのは,この本の出版がきっかけとなって現実の社会が動かされたこと。長らく放置されてきた「ナチ犯罪の共犯者に対する時効の問題」をめぐり,「ドイツ連邦法務省は2012年,ナチの過去再検討委員会を立ち上げた」のだ(「単行本版訳者あとがき」より)。
それほどの説得力と迫力が本書にはある。「この小説が政治を動かした」という帯の文言は嘘でも誇張でもない。読み応えがあるのは当然だ。