フランツ・カフカの名著『変身』(新潮文庫)を約9年ぶりに再読。
冒頭の「ある朝,グレーゴル・ザムザがなにか気がかりな夢から目をさますと,自分が寝床の中で一匹の巨大な虫に変わっているのを発見した」という衝撃的な一文はあまりのも有名。
読むたびに感想が変わるというか,面白いと思うポイントが変わる。これもまた名著たるゆえんだろう。今回読んで面白かったのは,冒頭から序盤までの一連の展開だ。
自分が巨大な虫になっているにもかかわらず,寝坊したことや仕事に遅刻してしまうことについてあれこれ悩んだり,異変を察知して様子をうかがう妹や両親の言動に毒づいたり,あるいは時間になっても出勤しないことを心配して自宅にやって来た勤め先の上司に対して言い訳を考えたりするグレーゴル。延々と思いを巡らせ悩み続けるグレーゴルに対して,思わず「そんなことを気にしている場合か!」と激しく突っ込みたくなってしまった。
グレーゴルの両親と妹も,グレーゴルが巨大な虫になってしまったことについてはさしたる疑問も差し挟んでおらず,寝坊して上に自室からなかなか出てこないことや上司に対して失礼な態度を取ったことを気に病むばかり。その場にいる皆がみんな,グレーゴルが突然虫になってしまったことを半ば無視しているのだ。あたかもそれが当然で自然なことであるかのように。とてもシュールなコントでも見ているかのようだった。