2014年12月6日 Text by たろ a.k.a.TAROMETAL
Twitterで誰かが「BABYMETALはミュージカルみたいなものだ」というような趣旨の発言をしていて、そのことにとても納得したことがある。そのことをもう少し掘り下げて考察してみたい。
この文章を書いている2014年12月6日の時点で、BABYMETALはアルバムを1枚しかリリースしていない。つまりライブで披露できる曲は13曲しかないということだ。アルバム未収録の"君とアニメが見たい~Answer for Animation with You"というカバー曲やSU-METALのソロ・バラード"No Rain, No Rainbow"があるが、それらをを入れても、わずか15曲である。(そうだ、「ヘドバンギャー!!」のRemixもあるか。)
そもそも"No Rain, No Rainbow"はめったにライブで披露されることはないし、"君とアニメが見たい~"がセットリストに入るのは日本でのライブに限られる。海外でのライブはアルバムに収録されている13曲が基本だ。(先日のロンドン公演で披露された新曲はこの際置いておく。)
アルバムを2~3枚リリースしているバンドであれば、数曲入れ替えるだけでセットリストのバリエーションは格段に増える。ツアーに出ても毎回セットリストは変わり、結果として1回ごとの新鮮味は増し、ファンは自分のお気に入りの曲が演奏されたりされなかったりで一喜一憂することになる。
BABYMETALの場合は事情が異なる。
曲順を変えることはあるとしても、セットリストの基本は13曲だ。演奏される曲のラインナップはどのライブでも同じ。うがった見方をすれば、変わりばえのない演目とも言える。
それにもかかわらず、一度でもBABYMETALのライブに参戦し、その魅力に取りつかれたほとんどのファンはこう思うはずだ。「もう一回見たい!」と。
そう、BABYMETALのライブには中毒性がある。演奏されるのは「いつもの13曲」だとわかりきっているのに、何度でもライブ会場に足を運びたくなるのだ。
「BABYMETALはミュージカル」という発言の意味は、そういうことなのだ。
たとえば、ミュージカル「オペラ座の怪人」は、ミュージカルに興味がない人でもそのタイトルや印象的な曲をどこかで耳にしたことがあるはずだ。ミュージカル史上に燦然と輝く名作であり、本場プロードウェイのみならず日本でも劇団四季によりロングラン公演されている。余談になるが、アンドリュー・ロイド=ウェバー版「オペラ座の怪人」はブロードウェイで21年間、ロンドンで22年間にわたり公演され続けた記録がある。ブロードウェイの記録は現在も更新中だ。劇団四季版も断続的に演じられ続けている。
ミュージカルは、乱暴に言えば毎回内容は同じである。ストーリーも事前にわかりきっている。出演者や監督によってテイストが変わることはあるが、それでも基本的には同一内容と言っていい。それにもかかわらず、素晴らしい作品は何年にもわたって上演され続け、ファンは劇場に何度でも足を運ぶ。「オペラ座の怪人」を何度も劇場で観たことがあるファンは多いはずだ。かくいう私も、ミュージカルど素人でありながら、ブロードウェイで1度、日本で1度、計2回観劇した。おまけに映画版も劇場で観た。機会があれば、また観たいと今でも思っている。
熱心なファンであればあるほど、リピーターとなって劇場へと赴く。それがたとえ同じ作品であっても。いや、同じ作品だからこそ、と言うべきか。
何やらBABYMETALのライブと事情が似ているではないか。
内容は事前にわかっている。それでも何度でも「現場」を体験したくなる。ミュージカルにも、BABYMETALのライブにも、そんな中毒性があるのだ。
これは一体どういうことなのだろう。
BABYMETALは1回1回のライブが全力だからだろうか?
確かにBABYMETALのライブはいつだって全力だ。MCがないので最初から最後まで一気に駆け抜けるから、ファンはなおさら3人が命を削っているような印象を受ける。しかしそもそも論として、ライブに全力投球しないバンドはいないだろう。
では、BABYMETALはライブを重ねるごとに急成長しているからだろうか?
2010年の結成当初から現在まで、3人はまさに成長期にあるので、BABYMETALが急激に成長し進化しているのは事実だ。しかし、これも程度の差こそあれどんなアーティストにも当てはまることだろう。場数を踏めば踏むほど経験値は増し、誰だって成長するものだ。
これらの理由は、いずれもBABYMETALに特有のものではない。
視点を変えてみよう。
BABYMETALのライブでは、いわゆるサプライズがないわけではない。それが何度でも観たくなる理由だろうか?
BABYMETALのライブの最後ではたいてい何らかの告知があり、それはほとんどの場合において、その場に居合わせた人々を驚かせ、喜ばせ、そして時に混乱させる。日本武道館公演での「聖誕祭を海外で開催」という告知はその典型だろう。(そう、あの時は「ワールドツアー」という言葉はなく、YUIMETALとMOAMETALの聖誕祭を欧州で行うということだけが知らされたのだ。あの時の驚きといったら・・・。)
でも、このサプライズはあくまでもオマケだ。「次回予告」を見たいがためにライブに行く人などいないだろう。よって、この種のサプライズも「ファンが何度もBABYMETALのライブに参戦したくなる」ことの理由になならない。
また、いわゆる聖誕祭では3人の生まれた年にリリースされた曲をメタル風にアレンジして披露することが目玉の一つになっているが、これはあくまでも聖誕祭に限った話。当然ながら毎回あるわけではないので、これも理由にはなり得ない。
考えれば考えるほどわからなくなる。
なぜ決まり切った13曲を聴くために、観るために、私たちファンは毎回BABYMETALのライブ会場へと足を運ぶのだろう。
散々考え込んでようやくたどり着いた自分なりの答えはバカバカしいほど素っ気なくて当たり前のものだった。
それは、BABYMETALの楽曲が素晴らしいからであり、BABYMETALのライブでのパフォーマンスが素晴らしいから。たがらこそ、1度でもBABYMETALのライブをを体験した人は、病みつきになってしまうのだ。
J-POPという装飾を施されながらも、根底には伝統的なヘヴィ・メタルへの深い愛情が息づいている楽曲、3人のアイドルとしての抜群の存在感と印象的なダンス、「キツネ様」や「メタルレジスタンス」といったギミックに満ちた独特の虚構世界、さらには神バンドというリアルなライブ・バンドとしてのポテンシャルの高さ・・・そのような様々な要素が一体となった「BABYMETAL」というパッケージそのものが極めて魅力的だからこそ、ファンはライブ会場に何度も足を運びたくなるのだ。そこで披露されるのが、たとえ「いつもの13曲」だったとしても。
これは魅力的なミュージカルとまったく同じではないか。音楽や照明などの舞台演出、出演者たちの歌と演技など、舞台上で繰り広げられる「オペラ座の怪人」という一つのパッケージが素晴らしいから、あらかじめストーリーがわかっていてもファンは繰り返し観劇したくなるのだ。
そう、BABYMETALはまさにミュージカルなのである。