武松といえばなんといっても景遥岡の2頭の人喰い虎を退治したエピソードがあまりにも有名である。景陽岡に超える前に酒をしこたま仕込んですっかり泥酔状態なのに素手で倒しちゃうのだから物語とはいえ恐れ入る。陽穀県の都頭になれたのもこの厄介な人喰い虎を武松が倒した話を聞きつけた県令がぜひこの土地を守ってほしいと拝み倒してスカウトしたからであった。武松も故郷である清河県に帰る途上で、故郷に帰ったら武大の饅頭屋でも手伝おうか、とでも思っていたかもしれないが、都頭となれば饅頭屋より当然金も弾む。じゃあまあこれも一時の縁、お世話になるか、ってなものだったろう。ところがその陽穀県で兄の武大に偶然出会ってしまうのだから運命の悪戯とは本当におそろしい。しかも兄嫁が武大よりかなり年下でどちらかといえば自分と年の近い男を魅了してやまない妖しいまでの美女と来たらまあそれは驚いたという言葉では済まされない。豪傑でならした無頼漢の武松とて男も男盛り。所詮石仏ではない。金蓮の美しさに惹かれた自分を隠そうと動揺したに違いない。そのことを金蓮もはっと気づいたに違いない。そして金蓮自身も武松と出会ったその刹那でくらくらしてずっと隠していた女の部分が騒ぎ始めたのである。
「主人の弟が今街で評判の都頭さんだったのね。同じ兄弟でこんなにも姿形が違うことがあるのかしら。勇敢な眼差し、堂々とした身体。。。」
あまり直接的な表現を使うとエロチックになりすぎてしまうのでよい子の読者の方は想像力を働かしてほしい。
「それに都頭さんも私の姿を見てハッとしてびっくりしてあわてているように見えたわ。私よりはいくらか年下に見えるわ。ふふふ。なんとか手なづけて可愛がってあげたいわ。。。」
いかんいかん、、、やっぱりエロ小説になってしまいそうだ。とはいえ、この物語はただ美しいだけではなく人間的な欲望もふんだんに兼ね備えた「ダークヒロイン」金蓮という存在をどのように際立たせることがなによりも肝なのである。
金蓮を見る人は彼女の美貌にさまざまな態度をとるだろう。中でも男の目はさぞかし物欲しげな、また未練がましい姿に彼女からはうつるかもしれない。
「ほんとにそんな淫らな目で見ないでほしいわ。。。」
しかし一度彼女の眼鏡にかなう男が目の前に現れるやいなや、それまで押し留めていた愛欲はしびれを切らしたからのように溢れ出さんとするから危うい。
彼女が男に色目を使うのは男が戦場に敵を見つけて刻の声をあげるのとまた同じなのである。
彼女にとって男を愛することは男が戦場に打って出るのと等しい。
「この可愛い人をどう料理しようかしら?」
次回以降の金蓮と武松の出会いからその後の展開は横山光輝「水滸伝」もしくは吉川英治「新・水滸伝」のストーリーに準拠して書くつもりだがそれよりも古今東西女性が男性を誘う仕草とはいかがなものなのだろうか?もうそんなことはすっかり忘れてしまった年齢となったが金蓮の再会につけ思い出してみてもいいかもしれない。