イブン・バットゥータについて書いてから随分ご無沙汰してしまった当シリーズだが、再び続きを書きたいと自分を促したのは一冊の本との出会いからなのであった。

写真家、野町和嘉氏の「サハラ縦走」。図書館でアフリカ地理の授業のいいネタはないか、と探していたところ出会ってしまった本である。

アルジェリアからニジェール、そしてリビア。この男は砂漠をランドクルーザーでサハラを疾走する。時には落雷や嵐といった悪天候に見舞われて車内に雨水が入りこむのを横目にしつつただただ全てが収まるまでひたすら耐え忍ぶ。サハラの砂地は絶えず変化を繰り返し、時にはランドクルーザーのタイヤを黄砂の深みに引きづり込み、後退を余儀なくさせる。まさに蟻地獄といった情景だがそれでもなお目標とする土地へと向かおうとするこの男を駆り立てるものは一体なんなのか、と読みながら平和な日本では考えられない非日常空間に正直驚愕している。


「移動する」ということの重みが違いすぎる。


北アフリカ、サハラはイスラーム教徒が多い。

7世紀にムハンマドを信奉する集団がアフリカ大陸に進出してからのことだろうが、先住民であったベルベル人は元来の自然崇拝的な信仰を持ち合わせていたと考えられるが、不思議なことにイスラームの教えと融合していくのである。なぜなんだろう。


イブン・バットゥータもそうであったように、イスラーム教徒が生涯を通じて願うことは聖地であるメッカ巡礼である。メッカに行くことができさえすれば全ては成就する。

しかしその聖地への旅は文字通り命をかけるに等しい難行だったはずである。