昨年、現在の騒ぎの間隙をぬって、ひさびさに旅に出た。金はほどほどだが、時間は有り余るほどあるので、各駅停車の電車に揺られながら、窓に映る景色を見ながら、ちょっぴり?酒を飲みつつ、浸る旅、なによりもぜいたくに思える。木曽川の流れはとりわけ美しかった。
泉鏡花の歌行灯も、能役者の旅の話から始まり、東海道中膝栗毛を気取った2人が冗談めかした話をし始めるところから始まる。私は、正直江戸文学は、近松と秋成をかじった程度で、あまりよくはわからないが、泉鏡花の作品の中に出てくる登場人物から、江戸の「粋」を感じ取ろうとしながら読んだ。背中が張っている様子を「身を皮も石になって固まりそうな」とか、この現代なら冗長的とも取られそうな言い回しでたとえるのも相手をクスッとさせようとする話術の一工夫。ちょっとした人とのやりとりを大切にしようとする心配り。いいねえ。
映画は、市川雷蔵と山本富士子の二大キャストで、衣笠貞之助という監督が作った作品があるのを知り、DVDを購入して視聴。こちらは喜多八とお袖の、仕舞を通じた師弟関係がやがて恋に転じる点をクローズアップしており、少し小説とは視点がずれた気がしたが、雷蔵好きとして、純粋に楽しめた。神社の森で稽古するシーンは、さすが大映!やりすぎとも思えるぐらいの、映像美。ラストシーン、雷蔵のなんとも艶かしい表情。雷蔵といえば、眠狂四郎、机龍之介などの殺し屋者のイメージが強いが、源氏物語、三島の金閣寺など、文学作品を原作とした作品も多く出演しており、今後追っていきたい。