《幻の花》
庭に
今年の菊が咲いた。
子供のとき、
季節は目の前に
ひとつしか展開しなかった。
今は見える
去年の菊。
おととしの菊。
十年前の菊。
遠くから
まぼろしの花たちがあらわれ
今年の花を
連れ去ろうとしているのが見える。
ああこの菊も!
そうして別れる
私もまた何かの手にひかれて。
《旅情》
ふと覚めた枕もとに
秋がきていた。
遠くから来た、という
去年からか、ときく
もっと前だ、と答える。
おととしか、ときく。
いやもっと遠い、という。
では去年私のところにきた秋は何なのか
ときく。
あの秋は別の秋だ、
去年の秋はもうずっと先の方へ行っている
という。
先の方というと未来か、ときく。
いや違う、
未来とはこれからくるものを指すのだろう?
ときかれる。
返事にこまる。
では過去の方へ行ったのか、ときく。
過去へは戻れない、
そのことはお前と同じだ、という。
秋
がきていた。
遠くからきた、という。
遠くへ行こう、という。
~石垣りん詩集より~
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長い歳月にあった哀しさ、苦しさ、そして喜び。
そのすべてを「菊」や「秋」の中にこめて石垣さんはうたっています。
この詩を読むと、今まで生きてきたさまざまな思い出が、走馬灯のように
胸にうかんでは消えてゆくのです・・・・・。
