「家に帰るまでが遠足です。」
そんなことを担任が言うのはどこの学校でも同じであろう。
ただ、学校から家が少し遠かった僕にとっては、昼間に歩き回って帰ってきたあとに家まで歩くのは苦痛でしかなかった。
家に親がいて、車があるなら迎えに来てほしいと何度思ったことだろうか。
そんなヘタレのために担任がわざわざ口をすっぱくして言っているのだろうけど。
それは、高2の秋のこと。
僕らは修学旅行の帰りの新幹線の中にいた。
僕らが行ったのは広島。高校の修学旅行にはぴったりの場所かもしれない。
原爆ドームを見ていのちについて考え、宮島に行き鹿と戯れる。
最後は名物の広島焼きを食べて、駅に戻ってきた。
きちんともみじ饅頭も買ってある。
帰りは城田の隣の席。
行きはわざわざ前日にくじ引きで決めた席に座ったが、帰りは自由だった。
僕はどうしても電車やバスの中で熟睡ができない。
だから、移動のとき、特に帰りの移動はなるべく窓際に座って景色を眺めることにしていた。
ほとんどの人が寝てしまうからだ。
今年になって、そんな僕の話し相手ができた。
それが城田だった。
彼も僕と同じように電車の中で目が冴えてしまうらしい。
そんなわけで、こういった移動のときはよく城田と周りを気にしながら喋っていたのだ。
「そういえば、斉藤はお土産買ったのか?」
「結構買ったな。家族の分とお世話になってる塾の分だ。」
「やっぱりもみじ饅頭だよな。みんな同じだからちょっとつまらないな。結局俺ももみじ饅頭だけど。」
ちょっと広島の人には申し訳ない気分だ。
「しっかし疲れたよなー。自由時間もなんだか少なかったし。」
「俺も話聞くときは何度か寝そうになったしな。」
「だけど、やっぱり寝れないんだよな。周りで熟睡してるやつらがうらやましいぜ。」
「まあ、家に帰ってゆっくり寝るさ。明日は休みだしな。」
その話題で僕はふっと思い出したことを城田に尋ねてみた。
「そういえばさ、「家に帰るまでが修学旅行です。」って修学旅行の度に言われてる気がするけど。」
「ん?」
「あれって、本当はどういう意味なんだろうな?ただ単に、自分の家まできちんと歩いて帰れってことなのかな?」
「んー、多分そうなんだろうな。」
「やっぱりそうか。」
「もしかしたら、自分の家まできちんと修学旅行の想い出を持って帰れってことなのかもしれないけどね。」
「でも、小学校のときの修学旅行のことも、中学校のときのこともきちんと覚えてるぜ。」
「…さあ、わがんね。」
それから城田がケータイをいじりだしたので、僕は外の景色を眺めていた。
外の景色は岡山に入って少し変わった気がした。
トンネルを抜ければ、また次のトンネルがやってきて、耳鳴りがひどくなる。
今度は城田から話しかけてきた。
「そういえばさ、この前ネットしてたら名言見つけたんだよ。」
「名言?何だよ?」
「この世はあの世に還るまでの修学旅行」
「ほぅ、どんな話を聞かせてくれるんだ?」
「まあ、よくある「人生は旅のようだ」ってそんな感じなんだけどな。さっきの話で思い出したんだ。」
「ふぅん」
「この話に当てはめると、家に帰るって修学旅行を終えるための準備なのかなって。お前も家に帰るときは修学旅行の想い出を振り返ってるだろ?」
「まあ、そうかな。」
「よくいうじゃん、死ぬ間際に今までの想い出が走馬灯のように蘇ってくるって。多分同じなんだよ、きっと。」
「今日はいつになくマジだな。」
城田はアツくなるとよく喋る。
僕は周りが起きないように、声のボリュームを下げるように言った。
すると、次に城田が喋りだしたときには、声のボリュームだけでなくトーンも下がっていた。
「なぁ、修学旅行が終わったら家に帰るだろ。」
「まあ、公園に住んでるわけじゃないからな。」
「…俺らが死んだらいったいどこに帰るんだろうな?」
「そりゃあ、まあ天国かどっかじゃないのか?」
「いつ死んでもいいように、想い出はたくさん残しておかないとな。向こうでたくさん想い出話がしたいし。」
「おいおい、そんな話は今する話じゃないだろ、まったく。」
「はは、わりぃ。」
「でも、城田の言うとおりかもしれないな。こうして楽しく過ごした高校生活も大人になったときにいい想い出になってるといいな。」
「だな。」
そんな話を、お互いケータイなんかをチェックしながら適当に続けていたら新幹線は僕らの街に着いた。
「いやー、着いた着いた。やっぱり地元が一番だ。」
「そうだな。あとは家に帰るだけだ。想い出を振り返りながらゆっくり帰ろうぜ。」
こうして僕らはまたさっきみたいな話を続けて、途中で別れた。
それから数十分、なんとか家に着くことができた。
そのまま僕は部屋まで歩き、部屋に入るなりベッドに倒れこんだ。
…あれから数時間して、母親に起こされた。夕飯の時間らしい。
まだ眠かったが夕飯を食べ、それからまた部屋に戻り徐にパソコンの電源を入れた。
すると、城田がブログの更新をしていた。
…まったく、マメなやつだぜ。
とりあえず、修学旅行の想い出がたくさん書かれていた。
どうやら城田は夜に部屋から抜け出したところを先生に見つかって叱られたらしい。
そんなたくさんの想い出のあとに、僕との会話のことが少し書かれていた。
『この世はあの世に還るまでの修学旅行っていう言葉があってさ。
この言葉を修学旅行に行く前に知れてよかったなあと思っている。
今回の修学旅行でもたくさんの想い出ができたし。
こうやって蓄えていった想い出話を持って天国に行けたらいいなと。
そうそう、修学旅行っていうのは3回もあるんだよな。
てことはもしあの世に行ってもまた修学旅行でこの世界に来れるんだよな。
人間様っていうのは幸せもんだな、まったく(笑)
っていう話を帰りに友達と喋ってたんだ。
あいつと喋ってて楽しかった。またこんな話をゆっくりしたいもんだ。
って、長くなったけど修学旅行の話はこんな感じで。
明日は休みだからゆっくりしよう。じゃあまた。』
あれから半年。僕らは3年生になった。
ただ、城田の時間はあの修学旅行の少しあとで止まっている。
いや、時間が止まってるのはこの世だけなのかもしれないけど。
城田があんな話をしていたのは、そんな予感がしたからなんだろうな。
多分ああして話している間も色んな想い出を頭にめぐらしていたんだろうな。
今でもまだ17年間の修学旅行の話を向こうでしているのだろうか。
まあ、あいつが蓄えてきたたくさんの想い出を語るには半年じゃあ無理だろうな。
僕は、城田が事故で死んだあとにずっと考えていた。
考えるたびに、頭も痛くなったし一人泣くこともあった。
でも、あの記事で止まったブログのあのフレーズを見ると少し安心する。
『修学旅行っていうのは3回もあるんだよな。
てことはもしあの世に行ってもまた修学旅行でこの世界に来れるんだよな。』
違う形であっても多分また城田と会うことはできるんだろうと思う。
絆。半分の糸って書く。
まだ、修学旅行は1回しか行っていない。
次の修学旅行でまた深めていけばいい。