昔、あるところに非常に美しい娘がいました。

彼女は美貌を鼻にかけて、言い寄る男達を天秤にかけていました。


もちろんそんなことをしていて妬まれないはずはありません。

彼女を妬んだ女が雇ったならず者に陵辱された上、肘より上の辺りで、両腕を落とされてしまいます。


無残な姿になった彼女から男達は離れていき、彼女は食べるものにも不自由するようになりました。

こんな惨めな思いをするくらいなら死んだ方がマシと身投げしようとしたところを隣国の王様に助けられ、彼女はお妃に迎えられました。


やはり私はまだまだ美しい。私は誰より幸福になる為に生まれたんだわ。

また彼女はそんな風に思い上がるようになりました。

やがて彼女は懐妊し、王様が国外に戦争に出掛けている間に可愛い双子の赤子が生まれました。

しかし驕慢な彼女が有頂天でいられたのもそこまででした。

義理の母に疎まれてしまい、世継ぎ誕生の手紙を王妃が不義の子を産んだと書き換えられてしまったのです。

戦に疲れた王様はそれを真に受けてしまい、彼女は赤子と一緒に城から追い出されてしまいます。


子連れでこんな体では男だって寄ってこない。ならばどうすればいいのか?働くしかない。こんな体でも出来る限りのことをして子供達を育てて生きていかなければいけない。必死に働く中で、彼女はやっと悟ります。生きる為に、みんなこうして働いているのだと、どんなにみじめで辛くてもそうして生きていかなければいけないのだと。


必死に働いて子供達を育てる彼女を見る周囲の目が次第に変わっていきました。最初は気味の悪い体、目障りだとしか思っていませんでしたが、彼女の必死さにほだされ、また彼女の見せる心からの感謝に、手をさしのべるものも増えていきました。


彼女が自分に手をさしのべてくれる人々、不自由な体の至らない自分を愛してくれた王様、自分を心から慕い愛してくれる子供達、全てに感謝できるようになったとき、王様が迎えに来てくれました。


心ない嘘を真に受けて、ひどい仕打ちをして悪かった。もう一度お城で子供達と一緒に暮らそうと。


こんな私でいいのでしょうか?私はただ自分の幸せだけを求めていたひどい女なのに?という彼女に、

今の君は違うだろう?働き者で良き母で、今の君ならば妃にふさわしいと王様は答えました。


彼女と子供達はお城に戻り、王様と末永く幸せに暮らしました。


って話(グリム童話の『手なし娘』。一部脚色あり)を、この本

濡姫 絶頂にむせび泣き悶えるプリンセス (竹書房文庫)/矢萩 貴子
¥630
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で読みましたよ。我ながら何てえろいタイトルの本を読んでいるんだか。まあ、男性の読むエロまんがに比べたら全然ソフトでストーリー重視ですけどね。


それはともかく、この話はいろんな事を教えてくれるような気がします。


手を切り落とされたり、でまかせを吹き込まれたり、城を追い出されたり、散々な仕打ちを彼女はされていますが、それは彼女がそうされるようなことをしてきたせいなんですよね。自分だけを尊く思い、自分は人よりいい思いをして当然だなんて思っていたら、誰だってその思い上がりを正したいと思うでしょうよ。たとえどんな手段を用いても、自分のしていることは正義なんだとそう思うんだと思いますよ。本来善良であるはずの人々にそんな手段を選ばせてしまう方にも問題があるでしょうね。

ということから、自分が他人からひどい仕打ちを受けたとしたら、果たして自分に罪はないのか。そうされるだけのことをしてきたのではないかと反省すべきなんじゃないかってことが判りますよね。


そして、容姿が美しいだけでは幸せになれないのだと言うことも。美しさもそうだし、強さも、富も、それだけがあっても幸せにはなれないんだよ。


まったくあの人は本当に幸せそうでマジ妬ましいよな。でも、あの人だったら仕方ないよな、こんちくしょー。と思われるような心でいなければならないんじゃないだろうか。

物事に真摯に取り組み、誰にでも優しく親身に接し、気取らず驕らず、明るくさわやかに親しみやすく振る舞う。もちろんそんなに完璧でもいられないだろうから、ちょっとぐらい欠点があってもいいけど、それでもとにかく愛すべき人であること、そういうことが必要なんじゃないだろうかって思う。


まあえろいタイトルのレディースコミックではあるけど、決してばかにしたものではないなと思う今日この頃の僕でしたよ。