「キーエンス解剖」★★★☆☆ | Jiro's memorandum

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【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

「キーエンス解剖」(西岡杏)

 

キーエンスについては、営業利益率が高くて給料がいい会社(次元が違うレベルで)、という程度の認識しかなく、いつか勉強してみたいと思っていた。

 

今回、本書を読んでみて、なるほどいい会社だな、と思った。リクルートの製造業版、という印象だ。

株式市場から見た「投資したい会社」は、往々にして「働きたくはない会社」だったりするのだが、この会社も当てはまるのかな、と思う。

 

とはいえ、本書では、その手のネガティブな内容は少なく、社員満足度が高いという調査結果も紹介されており(辞めた社員に同じ調査をやったらどういう結果になるのかわからないが)、水が合えば決して悪い会社じゃないのだろう。自分の子どもには就職を勧めてもいい会社、(ずっとそこで働くかは別にして)働かせてみたいと思わせる会社、かもしれない。ビジネスマンとしてかなり鍛えられ、その後の長い人生において、キーエンスでの経験が財産になるのではないだろうか。

 

 

キーエンスがなぜこんな驚異的な高収益を続けているのか?

 

要因は複合的で、一つひとつ挙げればきりがなくなってしまうが、利益の一部を社員に還元するとか、付加価値の高い製品を開発するとか、即納体制を作るとか、直販のみで代理店は使わないとか、営業成績が上がるKPIを設計するとか、情報共有するとか、資質のある社員を採用するとか、などなどほかの会社でもやっていることであったりする。

結局は、本書でも結論的にまとめている通り、その徹底度(もしくは会社のやり方を徹底している社員の含有率の高さ)だと思う。

 

ではなぜキーエンスは徹底できるのか、ということになると、行き着くところはそういう企業文化だから、という説明になってしまい、さらに突き詰めると、経営者が優れているから、ということになるのかな、と思う。

 

 

以下、備忘

 

 

・新製品の約7割が「世界初」あるいは「業界初」

 

・営業は意外にもプロセス重視(営業KPIの事例…電話件数、デモを見せた回数)。

 

・業績賞与のおおよそ半々が、アクションで評価される部分、成果で評価される部分。

 

・営業報告について、「行動していたとしても、書かなければやっていないのと同じ」という発想。SFA(営業サポートシステム)に蓄積しておけば、担当が変わってもデータは残る。人に依存しなくても効率的な営業活動が可能に。

 

・採用時に性格診断を複数回実施。負けず嫌いの性格の社員が多い。

 

・オープンワークの調査結果によれば、キーエンス社員の会社評価は5点満点中4.2。上位1%に該当する高さ(同業他社は3程度)。

 

・残業時間は57時間で業界平均の2倍超、有給消化率も低い。しかし、ハードワークでも満足度は高い。

 

・商品開発は粗利8割がひとつの目安。原価削減も頑張るが、基本的には付加価値を上げることに重点。

 

・どういう商品を開発するか、お客さんから言われて決めるようでは既に遅い。顧客が気づいていないような潜在需要を掘り動かさないとダメ。

 

・「顧客が欲しいというものはつくらない」という価値観が根底にある。

 

・「最近のヒット商品? 全部ですね」(山口取締役)

 

・付加価値を高めるポイントは「意味的価値」(カタログスペックの「機能的価値」だけではダメ)。どう組み合わせたら売れるか、というのがキーエンスはうまい。「他のメーカーでも技術的にはできるが、こういう組み合わせはしないな、という商品を提案してくる」(競合メーカーの商品を扱う営業担当)

 

・商品化承認の際に必ず聞かれるのが「ヒアリング件数」(顧客からどれだけ話を聞いたか)。10件だと企画書として認められない、20-30件が普通。

 

・1500万円の商品も含め、全商品で即納(翌日届ける)。直近の利益よりも当日出荷が重要(絶対的優先順位)。「キーエンスだったらすぐに持ってきてくれる」という他社にはない価値を定着させることで売り値を維持でき、長期的利益率向上につながる。

 

・営業利益の一定割合(15%程度?)を業績賞与として全従業員に還元。

 

・賞与比率高く、利益が出れば還元される仕組みがあるので(計算式まで含めて公開されている)、会社利益に貢献するマインドが持てる。
 

・会社が毎年「今年の時間チャージは○○円です」と発表。時間チャージ=付加価値(≒粗利)÷全社員の労働時間。

 

 ・情報を共有する文化が似ている企業の一つがリクルート。OB同士の仲がいいところも似ている。「共有」によって周囲がどんな努力をしているのかが見え、自分も必死に努力していると、時間とともに「共感」に変わるからかもしれない。「戦友みたいなものですよね」(キーエンスOB)。

 

・「『ペイパルマフィア』ならぬ『キーエンスマフィア』の時代が来ればいいな、と思っています」(キーエンスOB竹内将高氏)

 

 

 

 

だが、「普通じゃない」と感じる部分があった。仕組みをつくったら、その仕組みが役立つように本気で運用を徹底するという「最後の数センチメートル」の差だ。一言で言えば手を抜かないのだ。そして、全員がそれをやる。
 

「当たり前のことを当たり前にやる」ーー-この「当たり前」の設定値と徹底度が高い。

 

想像すると、息が詰まるかもしれない。だがキーエンスの人たちは明るく、楽しそうに仕事をしていた。キーエンスを卒業したOBも同様だった。それは、なぜそうしなければならないかという理屈を、透明性と納得感のあるものにしているからだろう。いい結果になると納得すれば、多くの人はそのための行動を自然に増やすはずだ。