「運の方程式」(鈴木祐)
鈴木祐さんの本を読むのは4〜5冊目だが、今回も満足度の高い一冊だった。
運をテーマにした本は他にも結構あるが、なんとなくフワッとしていたり、著者の経験に偏っていたり、行動力を高めるという結論を表現を変えて繰り返し言っているだけだったり、という印象もある。
鈴木祐さんの本書は、サイエンスライターという肩書きだけあって、調査や事例から偉人の名言まで、説得力のある(とは言い切れないときもあるが)根拠が次々挙げられて、話の展開もロジカルで、中身が濃い(参考になるページの含有率が高い)。
“運”関連本の中でも、一段レベルが上、という印象だ。
個人的に特に参加になったのは「知的謙虚さ」。
過信や思い込みに気をつけて、高感度アンテナと探究心を、いくつになっても持ち続けたい。
以下、備忘
幸運 = (行動×多様) + 察知)× 回復
・チャレンジの総量を増やし
・同時に行動の多様性を広げ
・予期せぬ変化に意識を向けつつ
・失敗から何度も立ち直る
「たしかに、わたしたちは幸運だった。でも、あまり幸運だ、幸運だ、とばかり言われると、それはちがうだろう、と言いたくなる。幸運はみんなのところに同じように降り注いでいたではないか、それを捕まえられるか捕まえられないかは、ちゃんと準備していたかいなかったかの差ではないか、と」(ノーベル賞受賞者・小柴昌俊)
映画、小説、音楽、科学などから有名人を選びキャリア遍歴を調査(ジョージ・ルーカス、フランク・シナトラ、マイケル・ジャクソン、などのキャリアで最もインパクトの大きい仕事が広まったタイミングを分析)した結果、大ヒットの発生時期はランダムで「売れる作品はいつできるのか?」「大きな発見はいつ生まれるのか?」は全く予想ができない。
ヒット作が生まれるプロセスにおいて、個人の能力より偶然の影響の方が大きく、タイミングは誰にも予想できない。有名なプロデューサーが知り合いだったり、新しく開発された撮影技術をたまたま使うことができたり、大ヒットの背景には必ずなんらかの運が存在。
■行動×多様
「人生の幸運は試行回数で決まる」
良い運をつかもうと思ったら、人生におけるチャレンジの回数を増やすしかない。
ex)成功率が1%の仕事→2回試行で成功率は2%、100回で成功率63%、459回で99%。
成功しているアスリートほど10代のうちに複数のスポーツを経験し、ひとつの種目に狙いを定めた時期は遅い。
要因1 複数種目を体験することでメンタルが燃え尽きにくい
要因2 いろいろ試せるので自分の才能を見極めやすくなる
要因3 多彩な経験により複数のスキルが身につく
天才と凡人を分けるのは好奇心の有無
天才特有のパーソナリティを調べる研究結果によれば、すべての天才に共通する性格は「開放性の高さ」(未知の情報に興味を持ち、そのモチベーションを行動に移せるかどうか)。簡単に言えば「好奇心」。
約4500人のCEOを調査した結果、ジェネラリストはスペシャリストより成功している(ex:収入は19%高い)。
好奇心という土台がなければせっかくの能力も発揮できない。得意分野を超えたジャンルに興味を抱き、損得抜きで幅広いチャレンジを重ねなければ、どんな才能も活かされずに終わる。真の天才とは、死ぬまで人生を探索できる人間。
“好奇心”というスキルを身につけ、人生を探索し続ける最大のポイントは「うまくいくまで、うまくいっているふりをせよ(Fake it till you make it.)」
「自分が目指す行動を積極的に実行できれば、性格特性は変えられる」。人生の探索スキルを身につけるには、“好奇心”を備えた人物のふりをし続ければOK。“好奇心”はインストールできる。
「反新奇バイアス」に気をつける
人は無意識のうちに未知の体験や見知らぬ情報に嫌悪感を抱く。「新しいものごとに触れるのはいいことだ」と頭ではわかっていても、気がつくといつもと同じような映画を選んでしまう、いつものレストランの新メニューを頼んだくらいで終わってしまう。古い習慣にとらわれない発想が大切。
予期せぬ幸運の大半は他者からもたらされる(深く狭いネットワークより薄く広いネットワーク)。
偉大な発見のなかには、当初は無駄と思われた行動の積み重ねから生まれたものも多い。
◾️察知
「イノベーションを起こす人ほど観察に時間を費やす」
ex)インテュイット…妻が家計簿を記入するとき機嫌が悪くなった、ツイッター…社内で使っていた短文の交換ツール使用率が異様に高かった
斬新な発明を生む人ほど身の回りの偶然に注意深く目を向け、そこで得た発見を幸運に変えられる。
「とにかく、問うのをやめてはいけない」(アインシュタイン)
「自分に対しても他人に対しても、すべてを問うことこそ、人間のすばらしさの最たるものである」(ソクラテス)
トップの営業マンは何が違うのか?を調査した結果、質問の量が多い傾向に。
1回の商談あたり質問数1-6問 → 成功率46%
1回の商談あたり質問数11-14問 → 成功率74%
「知的謙虚さ」
自分の意見にしがみつかず、自分の限界を知っていれば、そのぶんバイアスに惑わされず、客観的な情報をもとに真実を追求できる。
「他人と意見が違ったとき自分が正しい確率は?」→82%が自分が正しいと回答(デューク大学調査)。
「人生においては、ほとんどの人がもう少し自信を失ったほうがよい。自分の信念や意見に関しては、誰もが必要以上の自信を持っているからだ」(マーク・リアリー)
「ホットストリーク」(ポーカーやルーレットで連勝が続く状態、「勝利が勝利を生む」状態、人生の確変状態)
画家・映画監督・科学者のホットストリークの発生パターンを調査した結果、「ホットストリークに入った者の多くは、直前に多様な実験を行ったが、連勝が続いてからはリソースを一点に集中していた」。
ex)画家・ゴッホ、映画監督・ピーター・ジャクソン、化学者・ジョン・フェン、抽象画・ジャクソン・ポロック
◾️回復
「回復」のスキル…挫折の痛みからすみやかに抜け出し、再び新しいチャレンジに挑めるメンタリティ
ひとつやふたつの失敗でめげていたら(行動が増えなければ)、良い偶然が舞い込むこともなく、察知力を生かすチャンスもない。
必要な能力は①挫折から立ち直る力②失敗を糧にする力。
「人生には失敗がつきものである」「自分は間違いを犯す人間だ」という事実を受容する。
「もっともつらいがもっとも良い行動は、完璧でいるのをあきらめることだ」(アナ・クィンドレイン)
勝者ほど自分の才能と努力を過大評価する。過信が運の方程式を狂わせる。
「私は成功できる」と思い込んだら、もはや自分の行動と思考に疑問を抱く必要はなくなり、そこから新たな知識を学んだり、活動の範囲を広げたりといった気は失せる。過信によって好奇心が下がり、世界の探求がおろそかになってしまう。
「自分にはすべてわかっている」と思い込んだら、知的謙虚さは失われ、察知力は下がり、身の回りに起きた幸運に気づけなくなる。
どれだけ大きな成功を収めようが、どれだけ手痛い失敗を経験しようが、そのあとでやるべきことは変わらない。いろいろなゲームへの挑戦を繰り返す。ただそれだけ。
人生の失敗と成功に心を動かされず、運の方程式を淡々と使い続ける。そんなチャレンジを繰り返すうちに、人生という“運ゲー”は、少しずつイージー・モードに切り替わっていくはず。