「ローマ人の物語10 ユリウス・カエサル ルビコン以前[下]」★★★☆☆ | Jiro's memorandum

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【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

「ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以前[下]」(塩野七生)

 

ガリア戦役は7年目のアレシア攻防戦でヤマ場を迎える。相手は誇り高きガリア人の若き指導者、ヴェルチンジェトリックス。

 

5万人にも足らない戦力で、内側8万、外側26万もの敵を撃破。数の比だけでも、アレクサンダー大王に匹敵する勝利。ここでも、大規模な土木建築工事(アレシアの包囲網建設)が勝利を導いた。

 

エンジニアリング力(建築家)、統率力(リーダー)、文章力(文筆家)、とカエサルの魅力満載の一冊。

 

 



以下、備忘

 

 


ラインとドナウの両大河を視野に入れたカエサルによって、ヨーロッパ形成は始まった。「政治もやり作戦もやり一兵卒の役までやったこの戦争の達人にとって、戦争というものはある巨大な創作であった」(小林秀雄)。ユリウス・カエサルは、“ヨーロッパ”を創作しようと考えたのである。そして、創作した。

 


「お前たちが、やる気充分でいるのはわかっている。わたしに栄光をもたらすためには、どんな犠牲も甘受する気でいるのもわかっている。だが、わたしが、お前たちの命よりも自分の栄光を重く見たとしたら、指揮官としては失格なのだ」(カエサル)

 


ローマ軍団(特にカエサルの軍団)は、平時の生活でも必要な頭脳と技術を十分に備えた集団であった。


軍役中に、地勢を見ることを学ぶ。どこにどのような町を建てれば、防衛上も安心できるかを知る。そのうえ、建築技術も習得する。とくにカエサルのように、現実的で独創的な建設工事を始終やらせてくれる総司令官に恵まれれば、その下で経験を積んだ軍団兵が、優れた都市計画者や建築家や建設技術者に育つのも当然ではないか。

後年カエサルは、退役する旧部下たちを、現役当時の軍団のまま植民させるやり方をとる。これならば、技術力に加え、共同体内部での指導系統まで整った形で、新都市建設をはじめることになる。彼らの建てた町が、二千年後でも現存するのは、彼らが軍役中に会得した、工学部的知識と建設会社的実地訓練によったのではないだろうか。

 


カエサルが自ら詳細に叙述した『ガリア戦役』の最後の一行。

「この年の戦果を知るや、首都ローマでは二十日間の神々への感謝祭が決定された」

 


元老院への報告書のみで十分とは思わず、『ガリア戦役』を独立した作品として“出版”したのは、市民の支持を集めるため。ローマにいる反カエサル派に対し、見事な文章力で対抗した。

 


「ここを越えれば、人間世界の悲惨。越えなければ、わが破滅」

そしてすぐ、自分を見つめる兵士たちに向かい、迷いを振り切るかのように大声で叫んだ。

「進もう、神々の待つところへ、われわれを侮辱した敵の待つところへ、賽は投げられた!」

兵士たちも、いっせいの雄叫びで応じた。