「「売る」から、「売れる」へ。」(水野学)
水野学さんの本を初めて読んだ。
本当に一流の人というのは、信念が強くて、妥協がなくて、仕事にストイックなのだな、と改めて思った。
いまの時代、商品が売れないのはなぜか、どうすれば売れるのか、ブランディングという視点で、良いヒントがたくさんありました。
仕事に対する向き合い方についても、参考になり、刺激になりました。
以下、備忘
「ブランドとは“らしさ”である」
その企業や商品が本来もっている思いや志を含めた特有の魅力のようなもの。
そのイメージを構築するのは、河原で石を積み上げていくような感じ。
石の一つ一つは、商品そのもの、パッケージデザイン、広告、店舗、等、その企業のアウトプットすべて。
「ブランドとは見え方のコントロールである」
せっかく志の高い理念を掲げても、それを説明するウェブサイトのデザインが品位を疑うようなものだったら、理解してもらえるはずがない。
見え方のコントロールがもっともうまくいっている企業のひとつがアップル。商品だけでなく、あらゆるアウトプットがかっこいい。
「センスとは、集積した知識をもとに最適化する能力である」
なにかを選んだり、決めたりするとき、生まれ持った才能を頼りにしているのではなく、自分がそれまでに蓄積してきた知識をもとに最適化をはかっている。
おしゃれだといわれる人は、そもそもファッションについて豊富な知識を持っている。
センスを身につけたいと思うなら、まず知識を積み重ねること。逆に言えば、センスは努力すれば身につけることができる。
「天才は99%の努力と1%のひらめき」と言うが、それと同じようなものではないか。
センスを磨く方法は3つ。「王道、定番を知る」「流行を見つける」「共通点を見つける」
1「王道、定番を知る」
できるだけ客観的に、たくさんのものを見ていきながら、多くの人が「王道、定番」と感じるようなものはなにか、見きわめていく。「王道、定番」を見つけられれば、基準が見えてくる。逆に奇抜なものや変わったものもわかるようになる。
「差別化」の弊害で、売れない商品が増えている。
みんな「とにかく世の中にまだないものをつくらなくてはいけない」と考え、その結果、消費者が求めていないような機能をつけたり、奇妙なデザインを施したり、おかしなものをつくってしまいがち。
本当にほしいと思っている「どまんなかの部分」に、商品がなくなっている。これを「市場のドーナツ化」と呼んでいる。
2「流行を見つける」
そのとき流行っているものについての知識をたくわえる(「王道、定番」の逆)。
流行の多くは一過性のものだが、なかにはその後の定番になるものもあるし、時代とともに定番が交代することもある。
たとえば、昔の電話の定番は黒電話、今はスマートフォン。
3「共通点を見つける」
知識はたくわえるだけではなく、きちんと咀嚼しておくことも大切。分析したり、解釈したりして「自分なりの知識に精製する」。そのためのひとつの方法が、たくさんのものを見て、そこに通底する共通点やルールを見つけ出すこと。
共通点が見つかったら、自分なりにその理由や根拠を分析する。
説明できないデザインはない。
「説明できないけど、これはいいデザインなんです」なんていうデザイナーがいるが、それはウソ。センスが知識の集積をもとにしている以上、説明できないデザインはない。きちんと課題を解決できるクリエイティブなら、どんなものでも説明できるはず。
「世の中をあっと驚かせてはいけない」
差別化しよう、アイデアを出そうとしはじめると、どうしても世の中にないものをつくらなくちゃ、なんて大それたことを考えてしまう。それで無理をして不必要に奇抜なものをつくってしまって、受け入れられなかったりすることが少なくない。
いまの時代はものが飽和状態なので、機能やスペックでは差がつかなくなっている。でも、奇をてらったような商品は受け入れられない。だからこそ、ブランドの力で差別化する。そうでなければ、「売れるものにする」ことが難しくなっているといってもいいくらい。
ブランドとはなんなのか。ひとことでいうと、その商品や企業の「らしさ」のこと。
そのイメージは、広告、デザイン、パッケージ、店舗のレイアウト、パンフレットにいたるまで、商品や企業に関するあらゆるアウトプットの積み重ねでつくられる。
アップルの成功要因は、イメージの積み重ねによってつくり上げられた圧倒的なブランドの力がベースにある。
ブランド力がある企業の3条件
「トップのクリエイティブ感覚がすぐれている」
アップル、ダイソン、テスラモーターズ
「経営者の“右脳”としてクリエイティブディレクターを招き、経営判断を行っている」
ファーストリテイリング
「経営の直下に“クリエイティブ特区”がある」
資生堂、日産自動車(ゴーン社長のとき)
中川政七商店のブランディング事例
段ボール箱までデザインした理由は(1)ふとした瞬間にバックヤードの商品がお客さんに見えたときにイメージがいい(2)社員のモチベーションが上がる(かっこいいブランドで働いているほうが誇らしい気持ちになれる)。
ブランディングにかかわるとき、まず最初に経営者とたくさん話をする。そこでかならず確認するのが企業の「目的」と「大義」。
経営者から聞き出して、「大義」を言葉にする。
中川政七商店の場合は、「日本の工芸を元気にする!」という大義をはっきり打ち出した。
ブランドとは「らしさ」
流行をそのままもち込んだり、現代的で美しいものにすればそれでいいいのかといえば、ほとんどうまくいかない。大切なのは「似合う服を着せる」こと。
「らしさ」はその企業や商品自身のなかにある。「らしさ」つまり企業ならではの個性や魅力、もち味を見つけるために、その企業や事業、業界、市場の状況などについて徹底的に調べる。
プレゼンでは、いいことをいおうとか、うまいことやってやろうなんて、ぜったいに思ってはいけない。自分はしょせん自分でしなかいと開きなおって、考えたことを丁寧に伝えていく。そうすれば結果的にいいプレゼンになる。
企画書はクライアントへの手紙のようなもの。
大切なポイント 3つまとめ(再度)
「センスとは、集積した知識をもとに最適化する能力のことである」
「いい」「悪い」で語ることじゃないし、一部の人が生まれつきの才能として備えているものでもない。最適化は知識があればできる。知識は努力すれば集められる。
「世の中をあっと驚かせてはいけない」
「差別化」というものへの誤解
「ブランドは細部に宿る」
河原で石を積み上げていくようにしてつくられるもの
「売る」から、「売れる」へ。
デザインを依頼する側はデザインがわからず、依頼される側のデザイナーはビジネスのことがわかっていないーーーそこにある大きな溝が、「売れない」ものがつくられてしまう原因。その溝に橋をかけて「売れる」ものをつくることは重要な課題のひとつだった。
最後に付け加えておきたいのは、「正しさをつらぬく覚悟」。
クライアントの要望に首を縦に振るのはかんたん。しかし、まちがっていると思うときには、きちんとそのことを指摘しなければいけない。相手に嫌われたり、仕事を失う可能性があったりするが、それでも「正しい」と思うことを口にできるか。その覚悟がデザイナーやクリエイティブディレクターには求められている。