「人口減少時代の大都市経済」 | Jiro's memorandum

Jiro's memorandum

泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート


★★★★★


高齢化、生産年齢人口の減少。2050年まで見通した場合、スピード、レベルとも日本は先進国の中でも異常です。

今後数十年間にわたり、高齢化で財政支出は膨張し続ける一方、生産年齢人口の減少で経済成長率も税収も落ちていきます。どう考えても財政は厳しいです。消費税を5%⇒10%に上げたとしても目先の問題解決にしかなりません。理論的には今後数十年間ずっと消費税率を上げ続けなければ収支は合いません。

こうした状況から脱するため必要なこととして、本書では以下の提言をしています。

■労働の高付加価値化
機械化による生産性向上は限界(これまで日本は機械化による生産性向上に頼りすぎ)。個々人が能力を磨き専門性を活かした仕事をすることで賃金水準を上げる。国際分業で付加価値の高い仕事にシフトする。

■外国企業の誘致
外国企業にとって魅力的な環境を整え、日本国内にお金が留まる仕組み・カバナリティーを構築する。この取り組みは、日本はものすごく遅れている。

■生活コストを下げる
レストランに行く代わりにピクニックに行く。テーマパークに行く代わりに絵を描きに出かける。そういうお金をかけずに人生を豊かにする行動を個人はとるべき。ヨーロッパ的ライフスタイルを目指す。公的な施設整備も有効。


上の2つはよく言われることです。最後の生活コストを下げる発想は面白いと思いました。

ヨーロッパでは街の中にスクエアと呼ばれる空き地が必ずあって、そこでのんびり時間を過ごしたりしています。フランス人は田舎の知人や友人を訪ねて晩ご飯を食べたりする習慣があります。こういうお金を使わないライフスタイルが浸透しています。

一方、賃金水準は日本と比較してドイツは1.55倍、フランス、イギリス、アメリカは1.2倍程度です。なので、欧米では日本よりも早く引退できます。たくさん稼いで、お金を使わずに人生を楽しんでいます。

日本の65歳以上の労働力率は30%。これに対しフランスは2.1%、ドイツは5.7%、イギリス10.9%、アメリカ21.4%。日本は異常なまでに高齢者が働いています。逆に、賃金水準が低いので長く働かざるを得ないのです。労働期間を延長する政策はすでに限界です。


上記3つの提言はどれも簡単なことではありません。ただ、実際ここまでやらないと本当に財政破綻から逃れられないのではないかと思います。高齢化と生産年齢人口の減少は本当に深刻です。賃金(収入)が増えずに税金だけが増え続ける。そんな社会はぞっとしますね。

非常に参考になる本でした。





人口減少時代の大都市経済 ―価値転換への選択/松谷 明彦

¥1,890
Amazon.co.jp