「MBAマーケティング」 | Jiro's memorandum

Jiro's memorandum

泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

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本書で取り上げられているケーススタディに「少年ジャンプ」がある。「少年マガジン」「少年サンデー」の先行2社に9年遅れての創刊であったが、マーケティング戦略での差別化が奏功し業界No.1に躍進、ピーク時650万部と言う驚異的な部数を誇った。



まず少年週刊誌のビジネスモデルであるが、いわゆるプラットフォームビジネスといえる。優良なコンテンツを集めることが読者数の増加につながり、読者数が多ければ優良コンテンツの獲得に有利になる。

1959年に創刊した「少年マガジン」と「少年サンデー」は強烈なライバル関係にあり、優良な漫画家の開拓を競い合った。その結果、藤子不二雄などの才能が発掘され開花した。(5月頃NHKで「少年マガジン」と「少年サンデー」の編集者を描いたドラマをやっていた。最後まで観なかったが結構面白かった)

日本のアニメの国際競争力の高さの根底にあるのは漫画文化であり、漫画市場を活性化したのが少年週刊誌である。「少年ジャンプ」から輩出された「ドラゴンボール」や「北斗の拳」は世界を席巻している。



ところで、プラットフォームと言えば、Facebook、Myspace、Hi5などのSNSプラットフォーム、iPhone、Android、Blackberryなどの携帯プラットフォーム、が熱い。Facebook上では5万本以上、iPhone上では1万本以上のアプリが提供されている。

日本のSNSでは今のところmixiのみプラットフォームを公開する予定だが、長い目でみた場合(短期的にも)、複数のプラットフォームが競争したほうがアプリ市場全体は当然盛り上がるであろう。

「少年マガジン」も「少年サンデー」も「少年ジャンプ」もライバルがいたからみんな大きくなれたし、そこから世界トップのアニメ文化が生まれた。(プラットフォームから話はそれるが)ホンダもヤマハもスズキも、浜松という狭い地区でよきライバルとして切磋琢磨したから3社とも世界トップクラスの二輪メーカーになった。こういう話は枚挙に暇がない

mixiプラットフォームも複数のプラットフォームと競争したほうが、市場全体が拡大して結果的にmixi 1社だけのときより収益が大きくなるのではないかと思う。世界に通用するアプリが出てくる可能性も高まる。mixi 以外のプラットフォーム公開に注目したい。



さて、「少年ジャンプ」のマーケティング戦略について。本書を整理すると以下の点が挙げられる。

・大物漫画家を扱えない弱みを逆手にとり新人登用の戦略に集中
(他誌から引き抜くのではなく若手を発掘)
・編集者がプロデューサー的役割を担い漫画家と一緒に作品を企画
・人気のない漫画はすぐに打ち切る、もしくはアンケートに基づきストーリーを変える
(消費者ニーズを反映させる試みは当時としては画期的)

など。

個人的には、少年誌としての健全性の観点から保守的になっていた「少年マガジン」「少年サンデー」に対し、「少年ジャンプ」は悪く言えば低俗な漫画(暴力系やエッチ系)、良く言えば娯楽に徹したコンテンツに注力し、それが当たったのではないかと思う。先行2社が少年週刊誌と言う市場を開拓し、読者が成熟し、コアの読者の年齢層が上がってきたという市場の変化をうまく捕らえたともいえる。

この少年週刊誌のケーススタディはテレビ業界にも当てはまると思う。保守的だった日テレ、TBSの先行2社に対し、後発のフジテレビは娯楽に徹した(なかには低俗な)番組をつくり、80年代に視聴率三冠王の黄金時代を築いた。当時「面白くなければテレビじゃない」というキャッチを掲げていた。



いつの時代も、どの業界でも、先行する大手企業の間隙を突いた戦略で躍進する企業が現れる。いわゆる「イノベーションのジレンマ」

SNSなどのプラットフォーム競争も、主役交代が繰り返されるのではないか。案外、任天堂とか。


参照:
「イノベーションのジレンマ」
「イノベーションへの解」
「明日は誰のものか」



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