「なぜグローバリゼーションで豊かになれないのか」 | Jiro's memorandum

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泉治郎の備忘録 読書の感想や備忘録 ※ネタバレ注意
【経歴】 日本株アナリスト、投資銀行、ネットメディア経営企画、教育事業経営、人材アドバイザー、新聞社経営管理、トライアスリート

★★★★☆


なぜ、「豊かさが実感できない」のか。なぜ、20年間構造改革を続けてもなお、同じことを言い続けているのか。


北野氏は「構造改革に取り組んでいるうちに、別の新たな問題がわれわれを追い込んでいた」という立場で今後の日本企業の採るべき方向性を論理展開し、株式市場の動向を予測している。


豊かさを実感できない要因について、富が従業員から株主にシフトしていることと結論付けている。この結論自体に目新しさはない。しかし、その結論に至るまでのプロセス、読みごたえがある。豊富な状況証拠、センスのあるデータ分析、心地よい言い回し、に引き込まれる。


結局、日本企業がとるべき行動は財務レバレッジを上げることという提言。この意見には共感するが、配当、自社株買い、負債の増加だけでは、本質的に日本経済の明るい未来を想像できない。よりポジティブな提言にまで踏み込んでいない点が残念だ。ストラテジストだから、株の予測につながれば、そこまででよいのだろうが。


「あとがき」で北野氏自身も認めているとおり真相は「藪の中」であり、北野氏の推論が正しいとはもちろん限らない。半信半疑の分析もある。まあ、外れているとしても、読み物として面白い。


なお、株に興味がある人でないと難解な読み物である。




以下、備忘録


■日本は慢性的金融引き締め状態である
・金利の絶対水準ではなく経済の実力との相対感で金利が高ければ金融引き締め
・資金提供者が求める金利、資本コストはグローバル化した資本市場では均一
・日本の潜在成長率は世界平均よりも1%以上低い(-0.4% vs. +0.9%)
・日本の潜在成長率と資本コストのバランスは悪化している


■日本企業は資本コストを下げなければいけない
・1975年以降、日本の自己資本比率は一貫して上昇
・模倣の時代 1970年代まで、欧米を真似る、リスク小、間接金融
・創造の時代 1970年代以降、物が豊か・新しい投資、リスク高、直接金融
・衰退の時代 新興国の挑戦、収益性の低下、発言力を強める株主への対応(ROE維持)→財務レバレッジの利用(負債へのシフト) ※アメリカは1970年末以降この段階に入った


■ところで、1980年代の豊かさを実感できない要因は
・内外価格差の存在
・為替レートは自動車や電機など優等生産業に引きずられていた


■そこで、改革路線をとった
・規制緩和、保護政策撤廃、競争促進、内需拡大、貿易の自由化
・小選挙区制、生産者より生活者の声を政治に反映


■改革の結果、内外価格差は縮小した、しかし
・生計費の高さが豊かさの敵であったはずなのに、生計費の安さが「貧しさ」の象徴に
・やっと手に入れた、幸せの「青い鳥」は飛び去った
・物価は安くなったが、賃金がそれ以上に安くなったように感じる


■「新しい格差」・・・
・労働分配率の低下、株主分配率の上昇
・従業員給与の減少、役員給与の増加(役員は株主のエージェント)


■1980年代の日本株の高PER
・株式持合いを背景に期待リターンが低かった
・PERは期待リターンと利益成長率の差の逆数


■1990年代後半以降のPER低下
・株式持合いが崩れ、投資家の期待リターンが高まった
・世界の株式市場のPERは同じ水準に収斂
・日本の潜在成長率は低いのに世界と同レベルの資本コストを支払わなければいけない状態
・これは割高な資本コスト、慢性的な金融引き締め状態


■今後、どうするべきか
・潜在成長率を上げるか資本コストを下げるか
・前者は目標ではあるが実現は難しい
・なので、後者
・配当や自社株買い(借入してでも)によって財務レバレッジを上げる(自己資本比率を下げる)


■そして株式市場は
・期待リターンの低下でPER上昇
・外国人投資家の持株比率低下、日本人投資家の持株比率増加


■脱グローバリゼーションで、日本株は蘇る


※日本株は蘇るとしても、財務レバレッジを上げる(配当、自社株買い、負債の増加)だけでは、本質的に日本経済の明るい未来を想像できないが。。。




その他、備忘録


■不確実性に翻弄されるマーケット
・ニクソンショック後 金利が相場の決定要因
・原油価格高騰後 原油価格が相場の決定要因
・サブプライム問題


■米株式市場は基本、景気・業績、局面によっては金利次第
・金利次第の局面のアメリカ株式市場の経験則「PER=21-金利」


■日本の株式市場はもっぱら景気・業績次第
・おカネに対する「ありがたみ」の差、カネ余りの国は低金利
・エコノミストの成長率予測は6・四半期先になると2%±0.2%に収斂
・「月例経済報告」の景気判断の転換時に売り買いした場合、結果的に6勝1敗
・専門家の予測よりも、現状報告のほうがあてになる






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