(43) 都心から遠ざかるにつれ、 | すずめがチュン

すずめがチュン

アケノさんを取りまく風景をおとどけしてます。











2014/7/10 撮影

満開の桜が、おどろくほど


  あちこちに、見えるようになった。



「こんなに沢山の、きれいな桜並木を


  見れるなんて・・・・」


  「うん、鹿児島と、そんなに変わらないんだ」


 と、義兄が待つ、志木に向かう電車の中から


川べりや、街並みの中に見える桜を


  それぞれの思いで


   ・・・・・見ていた。



鹿児島の桜は、もう散り始めている。



  義兄は、奥さんを、33年前に亡くしてから


   ・・・・人が変わったようになり、


  沈み込み、次第に寡黙になっていった。


    私たちとの連絡も 途絶えがちで、



  そして、そのまま・・・


   二度と故郷をおとずれる事もなく


    旅立ってしまった。



 荼毘にふす火葬場に向かう頃


  強い風が吹きはじめ、



  沿道の桜が


 小雨まじりの風に、あおられて


   時折、雪のように


  ハラハラと、散るのを・・・


   バスの中から眺めて



  とうとう、この地の人となった義兄の


   心の内を思った。



 思ったより遠い道のりで



 やがて、


 遠くに、それと思える建物が見えて来た時



そこは、確か33年前、


  お義姉さんを、見送った処であることを


   思いだし、


  驚くほどに、大きな施設になっていることに


    改めて、長い時が流れていることを


     感じた。


   

降り立った、広い駐車場には


  今、散ったばかりの、無数の桜の花びらが


    黒い石畳を覆い、


   まるで、散華の花のようだった。



 そこを、二人の息子に先導された


   義兄の棺が進んでゆく。



   その棺に手を添え、


 「よかったね、お兄さん、最高の旅立ちだね・・・」


   と、心から思うのだった。



 次々と、ただ慌ただしいままに、


   義兄とのお別れを済ませ・・・・また、


    鹿児島へ帰る朝、



  今いちど、お線香をあげようと


    遺影の前に坐った時・・・・


  横にいた長男が、


    お花の脇にあった、コップを手に取り


     ニヤっとして、呟いた。



 「また、オヤジ飲んでるよ! ほら、こんなに減ってる!」


   そういいながら、指差してるところを見ると・・・



     水だと思ってたのは、実は焼酎で


   確かに・・・・縁からニセンチほど減っている!


 「よほど、喉が渇いてたんだなぁ~・・・」


   「飲んだのが、お水でなくて焼酎なのが、いかにも


     お兄さんねぇ」


      「田舎の焼酎だったから、余計、ウマかったんだろうよ!」


    と、口々に勝手な事をいい、笑い合った。


  

亡くなる10日ほど前、


  具合が悪い、との知らせで慌てて上京した主人が、


   帰ってきて、すぐ、二人の甥に送った焼酎だった。



 もうすでに、水さえも十分に飲むことができなかった兄が


   その焼酎を見て、


  どんなにか飲みたかっただろう、


   というのは、ダレにも十分わかることだった。


  

 義兄が見せてくれた、この茶目っ気は、


   一度は捨てて出て行った、我が家に


  これまでの、わだかまりを 全て忘れ


    最後は・・・・暖かく迎え入れてくれた


     息子たちへの


   お兄さんにできる、精いっぱいの、


     愛情表現のような気がした。



   亡くなるまでの、何週間かを


    また、家族として過ごせた!


     という、溢れるような嬉しさが


    感じられて、



  お酒の減ったコップは


     私達みんなの気もちを、嬉しくさせた。



 帰りの飛行機から写した、富士山の写真は


  雲海の中に、すっくと円錐形のアタマだけが


    見えている、



   気高く、美しく、もし自分が宇宙人だったら


     そこに、下りてみたい!


       と思うはず、



 そう言えば、東京の景色も、


  「こんなに、きれいな街だったっけ!」と思うほど


    澄み切った感じがしたのは、何故だろう、


  まるで、水色のフィルターをかけたみたいに・・・






     つづく