2025/05/02 毎日新聞(福岡県)
亡母は旧満州(現中国東北部)から敗戦直前に帰国した。中国残留孤児のニュースに接するたびに「敵国である日本人の子どもを、中国の人はよくぞ預かって育ててくれたものだ」と感心した様子で口にしていた。本棚に眠っていた「戦後七十年回憶録」を先日初めて開き、母の言葉をまざまざと思い出した。
九州に住む帰国孤児18人の回想録だ。敗戦後の苛烈な逃避行の後、中国の人たちから貧しくとも慈しみ育てられたことへの感謝がつづられていた。ある男性は中国に里帰りのたびに真っ先に養父の墓前に参り、丁重に供養した後に墓前の小石を包み日本へ持ち帰るという。
逃避行中、「お金はいらない」と物売りのおばあさんから牛乳を差し出された人もいた。民族や国籍を超えた純粋な愛情があふれていて、涙なしには読めなかった。世界は戦争がやまないが私は平和外交への努力をこそ望む。人間の愛や寛容さに希望を捨てていないからだ。